「正直に言えば、あの日あの時あなたを無理にでも引き留めなかったことはずっと後悔していますの」
——ジュリウスがブラッドを抜けると言い出したあの日。行かないで、とは言えなかった。どうして、と理由を問うことすら出来なかった。頭の中が真っ白になって何も考えられなくて、きちんと状況を理解できるようになったときにはもうジュリウスは手の届かない場所にいて。あれからずっと後悔の中にいる。
ラケルの企みを阻止してジュリウスを連れ戻すことが出来たのは様々な奇跡が積み重なった結果でしかない。
何かひとつでも違っていたらジュリウスは今もまだ螺旋の樹に囚われていただろう。或いはラケルの目的が彼女の望む形で果たされて、この世界が作り替えられてしまっていたかもしれない。ジュリウスとの再会も叶わないまま。
あの頃の自分はただ必死だった。悲しみも絶望も飲み干してひたすらに神機を振るっていた。今となっては心が折れかけていた頃の自分の記憶は靄がかかったみたいに朧げなものではあるけれど。
「あなたなりにブラッドを守ろうとしていたことは知っていますわ。ですが、わたくしのことを対等な仲間だとは思ってくださらなかったのだと実感して悲しくもなりましたのよ。……今だから言えることですけれど」
「それは……悪かった、と思っている」
「ええ、本当に。……わたくしも、あなたに対して盲目的で、きちんとジュリウスのことを知ろうとはしていなかったのでお互い様ですけれど」
もしもまた、ジュリウスがブラッドを抜けるようなことがあったら。それがブラッドの仲間を守る為だったとしても絶対に引き留めようと心に誓っている。
尤も、そのようなことが二度と起こることはないだろうと思ってはいるけれど。今のジュリウスであればあの時とは違って仲間のことで思い詰めるようなことはないだろうし、仮に思い詰めたとしてもジュリウスが余計なことを言い出す前に阻止する自信もある。
「わたくし、強くなりましたでしょう?」
「ああ、見違えるほど。……入隊間もない頃からセンスがある奴だとは思っていたが」
「いつまでもジュリウスに守られるだけのか弱い女の子ではいられませんもの。まだまだ強さを極めてはいませんけれど、きっとあなたのことも守ってみせますわ」
あなたが自分たちを守ろうとしてくれていたのと同じように。そうして対等な家族になりたい。