春の夜明け

 美味しいサンドイッチを作って、外でのんびりとサンドイッチを食べる。温かい紅茶を水筒に入れて。おやつにビスケットなんかもあれば幸福。
 そんな穏やかな日に憧れる。家族や友人と集まってなんでもないような話で盛り上がる。またね、と手を振って別れる。また同じように集まれることを疑いもしない。
 神機使いは明日を生きていられるかも分からないような立場だけれど、平和な日常の夢を見ることは自由な筈だ。

 ブラッド隊長、ノルンは遠くに視線を向ける。山々に畑、収穫間近の作物、鶏、青い空。まるで夢の中の世界のようだ、なんて漠然と思う。
 聖域と呼ばれるこの場所はアラガミの存在しない楽園のような土地。憧れていた穏やかな日々を過ごすことが出来る数少ない場所だろう。アラガミに襲われる恐怖も何もない。
 ブラッドの仲間たちがいて、神機を振るうこともない。アラガミがいない世界に生まれていれば自分たちは命をかけて戦う必要もなく胸に希望を抱いて生きてゆけたのだろうか、と考えてしまうこともあるが誰かを守る為に神機を振るう今の人生も嫌いではない。
 悲しみと絶望と後悔にまみれた日々も多かったが、それらがなければ今の自分はここにはいないだろう。

「聖域なら安全に出来そうですわよね、ピクニック」
「したいのか?」
「それはもちろん、嫌なことを考えずに楽しく過ごせる時間が一瞬でもあれば幸せなことですもの」

 通常の任務もあるから極東支部のメンバー全員で、というのは流石に難しいだろうけれどせめてブラッドのメンバーで。オペレーターも誰か一人くらいは休暇中で暇を持て余している人がいるかもしれない。都合がつくのならユノやサツキも呼んでしまえばいい。
 それだけの人数が集まれば楽しく過ごせるだろう。ほんの一時間程度であっても心安らぐ瞬間になる筈だ。
 普段しているお茶会と大差はないような気もするが、テーブルに皿を並べるのと地面にシートを敷いて弁当を広げるのとでは印象も違う。

「……お前はそういうことを考えているときが一番楽しそうだな」
「一人でしたらこのようなことこと考えませんわよ。ジュリウスがいて、ブラッドのみんながいるからこそ楽しめることですものね?」
「俺が参加するのは確定事項なのか?」
「あら、無理強いはしませんわよ。ジュリウスのことですから他に用事がなければ付き合ってくださるのでは、と思っていることは否定しませんけれど」

 ジュリウスの迷惑になるのでは、と考えてしまうこともあるしいくら信頼できる仲間とはいえ、いざ誘うとなると緊張もする。
 第一、ジュリウスは背中を預けられる仲間であると同時に意中の相手でもある。少なくともノルンにとって好きな人を誘って何かをするというのは——仕事であれば別だけれど——勇気のいることだ。
 初めてお茶会をしたときは声をかけようか迷っているうちに数時間経過していたし、緊張で声が震えているような気もした。今思い出しても恥ずかしくなる。
 今となっては流石に慣れてしまってひどく緊張して態度に出るようなことも減ってきたが、それでも心臓は早鐘を打つ。
 ——ジュリウスからすれば自分は仲間のひとりであり、家族でしかないのかもしれない。今はそれでも構わないと思える。どんな形であれ大切にされているという実感もある。

「お前にそういう風に言われると断りにくいのは否定しない」
「断るおつもりでしたの?」
「いや、そんなことはない。ただ……」

 一拍置いて、ジュリウスは言葉を続ける。

「お前は出会った頃よりも我を通すことが増えたな、と思っただけだ」
「ふふ、誰のせいでしょうね?」

 なんて、言うまでもなくジュリウスのせいだ。
 ジュリウスと一緒にお茶会をしたいし、ピクニックにも出かけたい。美味しいものを食べて幸せな気持ちになりたいし、暖かな日差しに思わず微睡んでしまう瞬間があってもいい。そんなわがままを胸に抱いている。