*時系列が謎
バレンタイン、という風習に関して知識としては知っている。
細かい内容は地域によって違うが極東地域においては概ね「女性から男性へチョコレートを贈る日」だ。
渡す相手は恋人や片思いの相手であったり家族や上司であったり、同性の友達と交換するというパターンもあったり、とにかく様々だ。
とはいえ人間ではなく基本的に他者に視認できない自分にバレンタインは無縁だろうとレンは思っていたのだが。
「バレンタイン、なんて私も乗るつもりはなかったんだけど」
オトハに差し出された既製品のチョコレートに面食らう。
このアナグラで唯一レンの姿が見えているオトハだが、正直レンは彼女からチョコレートを貰えるなどとは考えていなかった。
オトハとの付き合いは決して長くはないが彼女はあまり素直ではないし、好意や感謝を伝えるようなイベントに乗り気になるタイプでもない。
いつもの彼女ならばきっとチョコレートを意中の男性に贈る女性を見て「よくやるわよね」なんて呆れたように呟くだろうし興味なさそうにしているだろう。
「う、受け取る気がないなら自分で食べるから別にいいけど」
「ああ、いえ、すみません。オトハさんがそういうことをするのが意外だったもので」
「……何よ、私だってたまにはこういうことをしたりもするわよ」
まあ、アリサと偶然バレンタインの話になっただけだけど、なんて付け加える。
ああオトハらしいな、とレンは苦笑する。オトハのことだから案外バレンタインのこともすっかり忘れていて、アリサとの話で思い出して本当に何となく行動に移したのだろう。
手作りにしなかったのはオトハが料理をすると何故か戦闘用のアイテムが完成してしまうからだろうけれど。
「バレンタイン、新鮮な経験ですね」
「そう?」
何となく、不思議な気持ちだった。