初恋の味は良いものではないらしい

*レン主♀前提


この極東支部で賛否両論――というより否が大多数を占めるであろう初恋ジュースの缶をあけるオトハを見てソーマは顔をしかめた。
どうやら彼は初恋ジュースに良い思い出がないらしい。なんて極東支部に出入りする人間の殆どがそうなのだろうけれど。
怖いもの見たさで購入しアラガミと死闘を繰り広げたとき以上にげっそりしている人はよく見かけるが、その味を知りながら敢えて購入しているのは恐らくオトハくらいだ。

「……よく飲めるな」
「自分でもそう思う。実際にこの世のものとは思えないくらいまずいし」

言いながら、オトハは既に1本飲みきっていた。
この世のものとは思えない、という点に関してはソーマも同意する。しかしこれを真顔で飲みきれることは理解できない。
一口だけでも吐きそうになるのだ。たとえ罰ゲームでも飲みたくはない。それをわざわざ購入してまで飲んでいるオトハは奇妙だと思った。
これを飲んだ彼女が任務に支障を来すようなことは今のところないので気にしてはいないのだが。

「私の知り合いにこれをおいしいって飲んでくれてた人がいるのよ。……今どこで何をしているかも分からないし会えない可能性もあるけれど、だから私にとっては大切なの」
「お前やリンドウが前に話していた神機の精神体とやらか」
「そう。この味はきっと好きにはなれないけど、多分私は彼が愛していた味まで忘れたくはないのよ」

初恋は叶わないなんてジンクスもあるけれど、よく言ったものだと思う。
今までイメージしていた初恋はもっとふわふわした甘酸っぱいものではあるが、オトハには初恋ジュースのほうが初恋の味のイメージは近い。
こんなトラウマを抱えたかのような恋はさすがにしたこともないが。

「私には10年くらい記憶がないから覚えていないだけかもしれないけれど、彼が初恋だったのかもしれない」

今更自覚したって遅い。
せめて彼がくれた思い出を大切にしながら、今度こそ忘れてしまわないように生きたいと思った。