ナズナ

気付いたら家族はいなかった。恐らくは亡くなったのだろうと分かってはいるが、どうしてだか家族がいなくなった前後の記憶だけすっぽりと抜けてしまっている。
何か事件に巻き込まれてしまったのか、病気や事故なのか、思い出せない。
家族がいなくなっても天涯孤独ではなかったのは家族の代わりに守ってくれる従者がいたからで、彼がいなければきっと身寄りのない自分はアラガミに喰われていたか、飢えて死んでいただろう。

こんなご時世なのだ。身内に不幸があるなんて珍しくはない。
アラガミの偏食という特性を利用して作った防壁やアラガミに対抗するゴッドイーターの技術も確立され、以前と比べれば人口は増加傾向にあるとはいえ今でも毎日のように誰かがどこかでアラガミに襲われ、命を落としている。

家族がいなくて寂しいと思ったことがなかったわけではない。
しかし今は新しい「家族」に巡り会えたのだからきっと幸せなのだ。全員が同年代ではあるが、それ故に兄弟のように思っている。

「神機使いなんて危険が付きまとうお仕事ですけれど、わたくしは適合して良かったと思いますわ。P66偏食因子を投与された、わたくしにとっては家族に等しい仲間たちに出会えましたもの」

恵まれている。こんなにも素晴らしい家族を与えられて。彼らに出会えて良かったと思う。
守るべきものがあるからこそ、どんなに危険な任務でも生きて帰ってくることが出来るのだ。
——ただ彼に対するこの感情だけは、家族に抱くそれとは違っていることに、ノルンは気付いている。

「……家族、ですのに。おかしいですわね」

それでもこの感情は嫌いではなかった。