唐紅

「わたくしが、特異点でしたら良かったのに。世界は残酷ですのね」

ジュリウスが特異点としてこの場所に留まる必要があると聞いたとき、思わずそう口にした。
彼は自分よりも人々に必要とされる存在だ。ブラッドを、戦えない人々を、導くために外の世界を生きてもらわねば困る。
ブラッドの生きる世界を守り続ける為に終末捕喰が継続されているこの場所に留まることは怖くない。
しかし、ジュリウスが守ってくれているこの世界で、彼が隣にいない事実を受け入れて生きるなんて気が狂いそうだ。

お願い、せめて自分もそちら側に置いて。一緒に戦わせて。

その一言が言えたらどれだけ楽になれるのだろうか。そんなこと、言える筈もなかった。
これは彼の意志なのだ。好きな人が自分の意志で決めたことを、自分のわがままだけでねじ曲げてしまうわけにはいかない。

「あなたの隣で生きられないなんて、あなたの苦悩に気付けなかったわたくしへの罰でしょうか」

ブラッドを抜けたことも、黒蛛病患者を利用したことも、すべて意味があった筈なのに。
それが許されないことだったとしても。ただ彼は変わってしまったのではないかと、そう思った。
本質は何も変わっていなくて、以前と同じ仲間思いで優しい隊長のままだったというのに。

「そんな顔をするな」
「わたくし、ひどい顔をしていました? 自分では笑っているつもりだったのですけれど」
「無理に笑う必要はないんじゃないか?」
「……人前で弱い自分をさらせる女の子でしたら良かったのに。今更無理ですわよ、特にあなたの前では」

こんな場面でも泣き出すことは出来なくて。
泣き崩れて「嫌だ、離れたくない」と彼に縋ることが出来ればどれだけ楽だっただろうか。
彼を困らせたくない、笑顔で送り出したいという一心で浮かべた表情はどうやら相当ひどいらしい。

「……大好きですわ、ジュリウス。こちら側はわたくしが守りますから、心配いりませんの」
「無理をしそうで心配だが……お前には仲間がいるのだから大丈夫だと俺は信じている」
「あなたが生かしてくれている命ですもの、粗末には致しませんわ」

世界の終わりまで戦い続ける彼の為に、自分も戦うのだ。彼を好きになってしまったばかりにつらい恋をしているが、好きになって良かった。