「——赤い雨」
降ってきたみたいですわね、とノルンは息を吐いた。
遠くの空に赤乱雲が発生しているのが見え、任務を中断して引き上げて正解だったようだ。
別の区域で任務を遂行していたジュリウス達もギリギリのところで帰投したようで、幸いブラッドは誰も雨を浴びていない。
今日の討伐対象であったグボロ・グボロを倒せなかったのは心残りだが奴を執拗に追いかけ雨に降られてしまっては本末転倒だ。
黒蛛病と呼ばれる不治の病に感染したらアラガミと戦うことも出来なくなる。
「雨がやんだら先程のアラガミも倒しに行けるとよいのですけれど」
「逃げられてしまっている可能性もあるが、確かに野放しには出来ないな」
赤い雨が降っている間は出撃することも出来ないのがもどかしい。
何故よりによってアラガミが集まる極東地域のみ厄介な雨が降るのだろうか。
これが普通の雨だったなら構わず出撃したのに。今もどこかで誰かが喰われているかもしれないのに、晴れるのを待つことしか出来ない。
「でも、誰も雨に降られなくて良かったですわ。わたくしのチームはわたくしの独断で引き上げましたけれど、あなたが戻って来なかったらどうしようかと」
「流石に赤乱雲が見えていたからな」
「無用な心配でしたわね。隊長のあなたがあの雨の中で作戦を続ける判断をするとは思っていませんけれど、トラブルに巻き込まれて帰投が遅れる可能性はありますもの」
心配しすぎだと笑われてしまうだろうか。我ながら大袈裟だと思うが、こればかりはなかなか変えられない。
仲間が危険な目に遭っているかもしれないと思うと心臓がまるで抉られたかのように痛むのだ。
「仲間をこうして心配できるのもお互いに生きているからこそ、だと思いますから案外この気持ちも嫌いではないですけれど」
心配することが出来るうちは心配させてくださいな、と笑った。