「ジュリウス」
彼の名前を呼ぶ。
たったそれだけで安心するだなんて、妙に子供っぽい自分に思わず苦笑した。
ジュリウスは大切な家族であり、しかしノルンにとってはそれ以上の存在でもある。
尊敬する上官で、同時に好きな人。彼のいない世界なんて考えられないほど惹かれてしまっている。
「わたくしはあなたに出会えたお陰で人生が楽しくなりましたの」
「それはいくら何でも大袈裟だろう」
「大袈裟ではありませんわ。ここまでアラガミに食べられなくて良かったと思っていますもの」
ブラッドに入隊する前、アラガミに襲われ死を覚悟したことは何度もある。
いつか喰われても仕方がないと思って生きていた部分もあったが、ブラッドに入隊して――この庭園でジュリウスと出会って、その考えは変わった。
おかしな話ではあるがこの人の隣を歩きたいと、そのために生きたいと、そう思ったのだ。別に今まで死にたかったわけでもないのだが。
神機使いは引退前に殉職してしまうことが多いらしいけれど、生きて帰ることを最優先に考えていられるのは間違いなく彼のお陰だ。
とはいえ、副隊長として仲間の命を助けるために無茶をしてしまい結局危険な目に遭うことも多く、そのたびに誰かに怒られているのだけれど。
「こんな言い方はおかしいかもしれませんけれど、有難う御座います」
「……!?」
「……手の甲への口付けは敬愛、ですの。今はまだこれで十分ですわ」
彼の手の甲に一瞬だけ口付けして、ノルンはふにゃりと笑んだ。彼に抱いている感情にはきっと敬愛も含まれている。
だから、今はこれで満足だ。自分にしては大胆なことをしてしまったと思う。手の甲への口付けだけでこんなにもドキドキしている。
ジュリウスも驚いたような表情をしていて、何故かそれが新鮮で。こんな何気ないことに幸せを感じてしまう。
「……お前の行動は予測できないな」
「わたくしの行動が簡単に予測できてしまうようではアラガミにも動きを読まれて負けてしまいますわ」
「では、読めなかった俺はまだまだということか」
外の世界は荒ぶる神に喰われているというのに、この空間は平和な異世界のようだった。