支配する微熱

「彼女、無理をしていたみたいですね」

フライアで働く医者が呆れたように息を吐いた。
彼の視線の先にはベッドで寝息を立てているノルンの姿。彼女はいつものようにミッションを滞りなく遂行し帰投準備をしているときに突然倒れたのだ。
今日の任務はオウガテイルの討伐。入隊してから日が浅いとはいえ既に中型種との戦闘経験もある彼女には難しい内容ではない。
しかし、まだ経験の少ない彼女は知らない間に無理をしていたのだろう。副隊長に任命され負担が増えたことも影響しているかもしれない。

部屋を出て行く医者を見送り、未だに意識が戻らないノルンと二人きりになる。
熱が少し高いがそれ以外に問題はないという検査結果に安心した。暫く休めばすぐに回復するだろう。

「……いくらなんでも無理しすぎだ」

彼女が倒れたって誰も喜ばないというのに。尤も、恐らく無理をさせているのは自分なのだが。
どうやらノルンは人を頼ることが苦手らしい。仲間を信頼していないわけではないが、育った環境に起因するのか元々の性格なのか。

「……ん、あれ……ジュリウス……?」
「気がついたのか」

目の前にジュリウスがいることに気付いたノルンは驚いたような表情を浮かべる。あれ、自分は今までどうしていたんだっけ。
確かオウガテイルを討伐して帰投準備をしていた。そこから先の記憶が、ない。
体がひどく怠いし頭もぼうっとしている。自分でも無理ができないほど体調が悪いのだとすぐに分かった。

「お前は暫く休め」
「でも他にも任務が……」
「次の任務はノルンの代わりにシエルに入ってもらう。アラガミ討伐は他の神機使いにも出来る。だが、お前の代わりになれる人間はいないんだ」

たまに休むくらい、罰はあたらないだろうに。
入隊して以来、殆ど休もうとしない彼女が心配になる。仕事より仲間のほうが大事だ。
幸い、暫くは大型種との戦闘もないだろう。主にフライアの進路上で活動している小型アラガミの掃討をすることになる。
彼女が抜けて負担が増えるほど大変な任務はない筈だ。仮にあったとしても彼女に伝えたら無理にでも出撃するだろうから言うつもりはないが。

「上官命令だ。体調が回復するまで出撃させるつもりはないからな」

ずるい言い方だと思ったが「命令」ならば彼女は従ってくれる。彼女の為だと自分に言い聞かせた。