真綿のような休日

リンドウの神機に触れ、オラクル細胞に捕喰されそうになった。
引き裂かれそうなほどの痛みに耐え、リンドウの神機を振るいアナグラに侵入したヴァジュラテイルを何とか倒したところまでは覚えている。
目を覚ましたらそこは病室で、リッカと不思議な少年——少なくともオトハには華奢な男の子に見えた——が心配そうにこちらをのぞき込んでいたのだ。
リッカが病室を出て行ってから、彼は自らをレンと名乗った。

「あの、さ」
「何でしょう?」
「休みたいのは山々なんだけど、流石にそんなに見つめられてぐっすり眠れるほど図太くないんだけど」

病み上がりなのだから横になって休めと言ったのはレンのほうだ。神機の修理も終わっていないし何より腕を侵喰されたのだ。すぐに神機使いとして出撃できる筈もない。
新種のアラガミ、ハンニバルは確かに気がかりだが最近は殆ど休めていなかったしこの機会にしっかり休んでおくのは決しておかしなことではない。
それなのに彼にじっと見られていては落ち着かないではないか。

「そ、そうですよね、すみません。では何かあったら声をかけてください。これでも僕は一応医療班ですからお役に立てることもあるかと」
「……じゃあ痛みが残っているわけではないけれど、暫く眠れそうにないし……少しだけ話し相手になってくれると嬉しい」

リンドウが行方不明になり、彼の死が確定的になったこと。シックザール支部長が企てていたアーク計画と、争ってばかりの人間の為にノヴァを月まで運んでくれた小さな神様のこと。
眠ろうとするとそれらを思い出して、少しだけ切なくなるのだ。普段そんなことはなかったのに、休暇を取って時間を持て余すといつもこうだった。
それだけ普段は他のことを考えることがないくらい忙しいのだろう。
だからこそ、なんてことない話をしたかったのかもしれない。初対面の彼にそれをお願いしている自分は滑稽だろうか。
わかりました、と笑う彼が一瞬リンドウと重なる。リンドウはレンほど丁寧な口調でもないのに。

(彼がリンドウと同じ黒髪、だからなのかしら)

案外、様々なことが起こりすぎて気が滅入っているのかもしれない。