幸福論

ジュリウスが「そこ」にいる。今まで望んでいた、彼が幸せそうに笑う光景を。
それだけで十分だったのだ。ジュリウスが幸せであれば自分も満たされる。彼がいる当たり前の日常がとても大切だった。
一度それが当たり前ではない状況を経験したからこそ、尚更そう感じるようになれたのかもしれない。

「……ノルン、どうかしたのか?」
「え、あ……その、何でもないですの……」

まさか「あなたに見とれていました」とも「あなたのことを考えていました」とも言える筈もなく。
料理をしている最中であるというのに食材を切る手が止まっていた自分をジュリウスは純粋に心配してくれていたようだ。
指でも切ったのか、と覗き込まれ思わず顔を逸らす。心配してくれるのは嬉しいが恥ずかしいし何より顔が近い。
もちろんこんなに意識しているのは自分だけなのだろうけれど。

「べ、別に、その、そう、料理に慣れなくて人参の形が不揃いになってしまったのが申し訳なかっただけですの」
「……嘘だな」
「う……。だから、あの、またこうしてジュリウスと一緒に何かを出来るのが幸せだな、と思っていましたの……」

嘘をつくのが下手な自覚はあるけれど、きっと彼には嘘をつけない。
尤も、これからは自分を偽るような嘘をつくつもりなんてないのだけれど。

「……お前達が、来てくれたから」
「ジュリウス、もういなくならないでくださいな。わたくしには、あなたが必要なのですわ」
「ああ……約束しよう」

たとえ彼が嫌だと言ったってこの手を離してやるつもりはないのだ。
どれだけ遠くに行ってしまっても必ず見つけるだろう。同じ絶望を繰り返したくはない。
この温もりが傍に在る限り、どんな苦難も乗り越えられる気がした。