「まだ起きていたのか」
本を読んでいたジュリウスは人の気配を感じ、顔を上げた。今は大規模なアラガミ掃討の為の遠征中である。
もう夜も遅い。同じチームとして参加しているロミオとリヴィは既に眠っているだろう。隊長であるノルンも休んでいるとばかり思っていたが、どうやら起きていたらしい。
彼女のことだから仲間の負担を減らす為に人一倍努力して疲労が溜まっている筈だ。いい加減休まなければ次の戦闘に響く。
寝なければならないのは自分もそうなのだが。
「次の任務にはマルドゥークもいるみたいですから、ちょっとだけ不安になりましたの」
「……マルドゥークか」
あのとき、自分とロミオを襲い、ロミオの死の原因となったアラガミである。
今でもノルンの、否、自分を含めたブラッドの面々の心に深く刻まれた因縁の相手。
マルドゥークが苦手なのだとノルンは苦笑する。決して戦えないわけではないがどうしても嫌な記憶がフラッシュバックするのだと。
マルドゥークと交戦する可能性がある、と聞いた上で今回の作戦への参加を決めたのは他でもない彼女自身なのだが。
「無理はするなよ」
「……無理をしているつもりはありませんわ。あのアラガミを放置してわたくし達と同じ悲しみを背負う人が出るのは堪えられませんもの」
「お前は一人じゃない。俺に一人じゃないと言ったのは、お前だろう?」
「ええ、だからこそジュリウスにあらかじめ不安を打ち明けておきますの」
これまでの自分だったら不安な気持ちを隠したまま一人で敵を引きつける、なんて無茶をしていたかもしれないけれど。申し訳なさそうに口を開くノルンに思わず溜め息をついた。
しかし打ち明けてくれた、ということは少なくともそのような無茶をするつもりはないのだろう。
「ジュリウスに話したら少し安心しましたの」
「……そうか」
「やっぱりわたくしにとって、あなたはいつまでも頼れる隊長なのですわ」
おやすみなさい、という彼女の言葉が心地よかった。