濡れた髪と体温

「そ、それくらい自分で出来ますの!」

ノルンは濡れた髪をタオルで拭きながら、焦ったように言う。
任務中、突然の雨でずぶ濡れになってしまったのだ。雨が降り出したからと言ってアラガミを置いて引き返すなんて出来るはずもなくーーそれが赤い雨ならば話は変わってくるのだが、雨の中アラガミと交戦した。
濡れたまま過ごせば風邪をひいてしまうだろう。帰投して、すぐに服だけは着替えた。

「俺では嫌なのか?」
「べ、別に嫌ではありませんけれど……」
「ならば問題ないだろう」

俺では嫌なのか、という一言に反射的にそう返す。嫌ではない。決して嫌なわけでは。強いて言えば恥ずかしいのだ。
髪はもっとしっかり乾かさないと意味がない、と言い出したのはジュリウスだった。確かにまだ少し濡れていたから、ジュリウスに指摘されるのも仕方のないこと。
指摘されただけなら良かったのだ。ジュリウスが乾かしてやる、なんて言い出すから。

「で、でも、その、やっぱり自分で……」
「頑固だな」
「あ、あなたが相手だからですわよ」

意中の相手に髪の毛を触られる。そんな展開、自分の心臓が保つとは思えない。おかしくなってしまいそうだ。
髪を乾かす、ということはそれなりに近付く必要もあるわけで。
想像して、顔に熱が集まるのを感じた。やはり無理だ。どうしても羞恥心のほうが勝る。

「……本気で嫌なら、やめるが」
「っ、そ、そんなことはありませんの……ジュリウスにされて嫌なことなんて……」

逃げ道を自ら断ってしまったような気がする。
いつになっても彼にはかなわない。