ブラッドとしての任務を終え、聖域へ足を運ぶ。今や日課になっている聖域での作業がノルンは好きだ。知らないことを発見できるから。
神機使いとしての力を使えない聖域では、苦労も多いのだけれど。
「ジュリウス、見てください!」
畑で作物の様子を見ていたジュリウスの耳に届いたのはノルンの弾んだ声。
先程から彼女の姿が見えないと思っていたが、どうやら畑の隅にしゃがみ込んでいたらしい。てっきりシエルやリヴィと共に動物の世話をしているのだと思っていた。
尤も、畑仕事はひと段落していたので特に困ることはないのだが。
「どうした、ノルン」
「ここに野花が咲いていますの!」
ノルンが指差した場所には確かに小さな花が咲いていて。わざわざそれを伝えようとしていたのかと思うと少し微笑ましい。
今だけは凜としたブラッド隊長の表情ではなく、年相応の少女の顔だった。
何の花なのでしょう、と首を傾げている彼女がまさか二度も世界を救っただなんて誰も思わないのだろう。
「ねぇ、ジュリウスは知りませんの? 最近よく読んでいる本に載っていたりとか……」
「……いや、残念ながら俺も見たことがないな。珍しい花なのか、或いは聖域で生まれた新種のようなものかもしれない」
聖域は終末捕喰によって生み出された新しい土地なのだからありえない話ではないだろう。外の世界とは環境も違う。
今までなかった植物が生まれる可能性は低いかもしれないがゼロではない、と。そう続けるとノルンは目を輝かせた。新しいおもちゃを与えられた子供のよう。
彼女は案外好奇心が強いらしい。自分の知らないものに興味を示すことが多々ある。
「アラガミのいないこの場所なら、見たことのない草花がそのうち増えるかもしれないな」
「ええ、楽しみですの」
ふわりと笑んだノルンの表情は「あの頃」と違って本物だった。