聡い

私は彼を、知っているような気がする。
実際にどこかで会ったことがあるのか、それとも似たような人を見たことがあるだけなのか、分からないけれど。
もちろん私にはレンなんて名前の知り合いはいない。当然ながら最近配属されたばかりの新人と任務で一緒だったことがある筈もなかった。
彼が配属される前にこのアナグラですれ違ったことがあるのかもしれない。そんな一瞬の出来事を覚えているわけないけれど。

(幼少期の記憶が全くない私だから、深く関わった相手のことも覚えていられる自信はないけれど)

目の前にいる黒髪の彼はきょとんとした顔でこちらを見ている。綺麗なオレンジ色の双眼をじっと見ていると吸い込まれそうだ。
やっぱり、私は彼の顔に見覚えはない。強いて言えば彼の黒髪は行方不明となっているリンドウを思い出すくらいだ。
もしかして記憶を失う前、関わったことがあるのだろうか。しかしだとすれば同年代であろう彼が私を覚えているとも思えない。
私も、彼のことを思い出せる気がしない。

「レンって初めて会った気がしないのよね」
「どうしてですか?」
「それが分かれば苦労しないわよ。あんたのその不思議な雰囲気がそう錯覚させているのかもね」
「……オトハさんって意外と聡いですよね。だからこそ第一部隊のリーダーとして皆さんに慕われているのかもしれませんけど」

私の中にあるほんの僅かな違和感。
彼も私のことを知っているような気がした。気のせいかもしれないけれど。

やがてレンの正体を知って今まで引っかかっていたその違和感の理由に気付いた。