雨の音と小さな幸せ

 今日はいつもより星がよく見える日らしい。極東支部で働いている研究者たちがそんなことを話しているのを聞いた。
 少しだけ、それを楽しみにしていたのは否定できない。このご時世、ゆっくり星を見るだけの心の余裕なんてあまりないし普段は任務で疲れ果てている。

「…………朝はあんなに晴れていましたのに」

 夕方から降り出した雨は明日まで止みそうにない。空はどんよりとした雲に覆われていて月も星も見えなさそうだ。
 ざあざあと降り続く雨を見ながら思わず息を吐く。——雨はあまり好きではない。赤い雨を思い出すから。
 赤い雨を知らないままであれば雨音も心地よく、意外と悪くないと思えたのだけれど。
 極東にはてるてる坊主という、白い紙などで作った人形を吊るして翌日の晴天を願う風習があると聞いたことがある。今からでも試してみるべきだろうか、などと思案する。

「そんなに星を見たかったのか?」
「星を見たかったのは事実ですけれど……ブラッドのみんなで夜空を見上げる、なんてこと滅多にありませんもの」

 あなたと一緒に見たかった、なんて言える筈もなく。ブラッドのみんなで星を見ながら過ごしたかったのも嘘ではないけれど。
 好きなひとと1秒でも長く一緒に過ごしたいと思うのは仕方のないことで、どうせなら特別な思い出が欲しいとも願ってしまう。彼と一緒に、という部分は今も叶っているのだから贅沢ではあるのかもしれないけれども。
 きっとジュリウスはこの感情を知らないし、気付いてもいない。今はそれでも構わないと思う。

「……もうすぐ、流星群が観測できるらしい」
「流星群?」
「今日は天気に恵まれなかったが、流星群の日は今のところ晴れそうだと聞いた。聖域からであれば流星群もよく見えると思うが……」

 それは、デートのお誘いと捉えても? そんなことを問うだけの勇気はないし彼はデートのつもりなんてないのだろうけれど。

「ブラッドのみんなで、見に行きましょう」

 今はそれだけ返して、笑うのだ。