隊長、と呼ばれるのは未だに慣れない。自分にとって隊長はいつだってジュリウスだから。
——本当は、ジュリウスがブラッドに戻ってきたら彼に隊長の立場を返すつもりだった。無責任だと言われても仕方ないが自分はあくまでもジュリウスの代理で、彼が帰る場所を守る為に隊長をしていたようなもの。
ジュリウスが戻ってきた今でも隊長をしているなんて自分でも不思議なくらいではあるけれど。
「ジュリウスに隊長、なんて呼ばれてしまったら今更辞められないではありませんの……」
とはいえ、ジュリウスにそう呼ばれることが嫌なわけではないし彼が自分のことを信頼してくれているからこそ任せてくれているとも理解している。
隊長。
そう呼んだジュリウスの声を思い出す。少しくすぐったいし、ドキドキする。自分はどうしようもないくらいジュリウスに惹かれてしまっているのだと改めて自覚すると恥ずかしい。
*
所謂一目惚れ、というものだったのだと思う。
ノルン・エーデルワイスがブラッド隊に入隊したその日。フライアの庭園にいた亜麻色の髪の青年に、何とも言えぬ感情を抱いたことを覚えている。
知らない人。初対面である筈の彼の声に、表情に、無性にそわそわした。きっとあの時既に恋に落ちていた。
その恋心を自覚するのはもう少し先の話。
*
「ああ、ノルン。来たか」
「ジュリウス、何かありまして? わたくし、あなたに聖域に呼び出されるなんて思いませんでしたわ」
同じ部隊の所属とはいえ、ブラッド隊のメンバーも常に行動を共にしているわけではない。
今日のノルンはロミオとナナと一緒に簡単な任務をこなしていたし、ジュリウスは人手が足りないという理由からシエルと共にクレイドルの任務を手伝っていた。ギルバートやリヴィもそれぞれ別件で出払っていたと記憶している。
出かける前、任務が終わったら聖域に来てほしいとジュリウスに言われていたこともあり——ジュリウスに呼ばれなくても畑が気になっていたので様子を見に来ていただろうけれど——ロミオとナナには一足先に帰投してもらい一人で聖域を訪れていた。
聖域では先に来ていたらしいジュリウスがいて、緑あふれる土地に佇むジュリウスの姿も美しいな、なんて場違いなことを思った。
「いや、大した用事じゃない。少し前にトウモロコシを植えただろう?」
「ええ、よく覚えています。わたくしも、収穫が楽しみですもの」
「そのトウモロコシがそろそろ収穫出来そうだったからな」
聖域では他にも様々な作物が育てられている。
農業において素人でしかない自分たちでは失敗も多いけれど、その分きちんと収穫出来た作物を見るととても嬉しくなる。
「お前はこのトウモロコシのことを特に気にかけていただろう? 収穫間近になって駄目にするようなことは避けたい」
トウモロコシを育ててみたい、と言い出したのはノルンで。慣れない手つきでジュリウスにも手伝ってもらいながら何とか植えたのを覚えている。
これから天気が崩れそうだからこのトウモロコシを含めて今のうちに対策をとっておきたいのだという。
——作物を育てるなんて簡単なことではないし、確かに畑の作物が全て駄目になってしまったら立ち直れないかもしれない。
大袈裟だと思われるかもしれないけれど、聖域で育てている作物はどれもノルンにとっては我が子同然なのだ。
「ああ、それから」
「他にも何かありますの?」
「話は変わるがこのあと時間はあるか?」
「……ええ、予定は特になかった筈ですけれど」
戻ったら紅茶でも飲みながらゆっくり休もう、なんて考えていたくらいだ。
「近くのサテライト拠点に用があるんだがよかったら少し付き合ってほしい、隊長」
不意に隊長、と呼ばれて心臓が跳ねる。
その呼び方はまずい。いろんな意味で。
「…………ずるいですわ、ジュリウス」
ジュリウス自身に隊長と呼ばれて自分に拒否できる筈などない。
もちろんジュリウスはそんなこと、知る由もないだろうけれど。——ジュリウスが自分をブラッドの隊長にしたのだ。
その彼にブラッドの隊員として、隊長に付き合ってほしいなどと言われてしまったら断れない。そうでなくとも断るつもりはないのだけれども。
「わたくし、ジュリウスには敵いませんもの」
これが惚れた弱みというものなのかもしれない。