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【1】

 昔の面白い映像作品を見つけたのだ、と言っていたのは誰だっただろうか。
 面白かったからノルンも次の休みにでも観てほしい、なんて言われたのは数日前のこと。せっかく勧められたのだから……とその映像を再生してからの数時間の記憶がない。否、映像の内容を殆ど観られなかっただけで決して記憶喪失になったわけではないのだけれど。

「まさかホラー映画だったなんて思いませんでしたの……」

 創作だと理解はしているけれど、次々に起こる怪奇現象があまりにもリアルで映像を直視することが出来なかった。
 途中で自室で休んでいたジュリウスのもとへ逃げてしまったほど。……冷静に考えて、それはそれでどうなのかとも思うけれどシエルやナナ、リヴィは別の任務で留守にしているしギルバートやロミオはクレイドルの人たちと何か話し込んでいたし、ブラッド以外にこんなことで泣きつけないし、一人で部屋にいるのも怖いから、なんて理由で気付けばジュリウスの隣にいた。

「ノルンがこういうことで俺のところに来るのは意外だな」
「そう、でしょうか」

 ——確かに「怖い映画を観た」なんて理由でジュリウスのところへ避難するのは珍しいかもしれない。
 少なくとも過去の自分であればジュリウスに怖がる姿を見せたくはないからと一人で部屋の片隅で震えていたような気がする。
 ホラーが苦手だということすら極力隠そうとしていたかも……とはいえバレバレな気はするのだけれど。

「……わたくしにだって苦手なものくらいありますもの」

 普段アラガミと戦っているくせに創作の幽霊や怪奇現象に怯えるなんて、と笑われてしまうかもしれないが理解できないものが怖いのは仕方ない。
 映画が怖かった、なんて理由でジュリウスの部屋に逃げジュリウスの近くで震えている現状も随分と恥ずかしいとは思うのだけれど。

「……このことは、誰にも言わないでくださいな」

 こんな姿、本当はジュリウスにだって見せたくはないのに——そう思いながらも彼が隣にいてくれるだけで少し安心する自分は単純だ。

【2】

 ……一目惚れ、だった。
 子供の頃に読み聞かせてもらった本の中には王子様や騎士に一目惚れする女の子の話もあったような気がするし、そんな話に目を輝かせていたような記憶もあるけれど、自分が誰かに一目惚れする日が来るなんて思っていなかった。

「ジュリウス、先程は助けてくださって、その……ありがとうございます」

 複数のアラガミを相手にしていて、死角からこちらを狙うオウガテイルの存在に気付いていなかった。
 気付いたときには防御や回避が間に合う状況ではなく、攻撃が直撃することを覚悟していたのだが——ギリギリのところをジュリウスに救われて今に至る。
 ……笑われてしまうかもしれないが、自分を助ける為に神機でオウガテイルを斬り伏せたジュリウスの姿はまるで幼少期に触れた物語に登場する王子様のようだ、なんて。

「…………わたくしはお姫様でも何でもありませんけれど、一目惚れしてしまう気持ちは今なら少し分かりますの」

 だってジュリウスが助けてくれた、その神機の振り方を見ただけでも昨日よりもっと彼を好きになっている自分がいる。

「どうかしたのか?」
「……何でもありませんわ」

 今のところ、これ以上は望まないのだけれど。ジュリウスの側にいられる、それだけでも奇跡だと思うから。

【3】

 ジュリウスが何か調べ物をしているのを見かけたのは数日前。
 どうせ調べ物をするのなら二人で調べたほうが早いから、と手伝いを申し出たのもその時だった。データベースは一通り目を通したがめぼしい情報は得られなかった、ということは聞いていたのだが。

「お役に立てず申し訳ないですの」
「……いや、助かった」

 まさか成果がないとは思わなかった。
 極東支部にある書物は調べられる範囲で調べたし、仲間に聞いて回ったりもした。一応全く何も得られなかったというわけでもないが、はっきりとした情報ではない。
 それでもジュリウスの役に立つかもしれない、と思い報告はしているのだが。

(少しはジュリウスのお役に立てれば、と思いましたのに……)

 これでは自分がいなくても同じではないか、と考えてしまい嫌になる。……手伝いを断られることがなかったのは救いではあるのだけれど。

「また、手伝ってくれると嬉しい。もちろんお前が嫌でなければ、だが」
「嫌なんてことありませんの。少しでもお役に立てるのでしたら喜んで」

 戦闘以外で役に立てることがあるのかは疑問なのだが。
 もう少しいろんな知識をつけておけば良かったなぁ、なんてことを今更考える。紅茶の知識なら多少は……と思ったがジュリウスが紅茶の知識を必要とする場面も想像は出来ない。
 ——嗚呼でも、ジュリウスがまた手伝ってくれると嬉しいと言ってくれたことが何より幸せなのだから自分は単純だ。

【4】

 ——ジュリウスの手を離してしまった夢を見た。
 ブラッドを抜けて、一人で全て抱え込んで、気付いたときには既に手の届かない場所にいた。
 僅かに繋がっていた細く頼りない糸を切ったのは自分だったのだと思う。彼の「願い」の為にこうするのが一番なのだと自分の感情を押し殺して。
 今でも鮮明に思い出せる、あの時の絶望感。
 きっとこれから先の人生、忘れられる日は来ないのだろう。これは、ジュリウスの手を掴まなかった自分への罰なのかもしれない。そんなことを思う。

「……今となっては、遠い昔のことのようですけれど」

 ジュリウスと別れたのも、彼を連れ戻したのも、もう随分前だ。
 身を引き裂かれるような悲しみと絶望を乗り越えることが出来ず、生きているとも言い難いような精神状態で毎日を過ごしていたことも、今では笑い話。

「ノルン、少しいいか」
「ジュリウス、何かありまして?」
「聖域で育てている野菜に関する話なんだが……」

 昔だったら、こうやって声をかけてくれることもなかったのかもしれない。
 ……なんて、ジュリウスから農業に関する相談を受けながらふと思う。
 自分も農業に関してはさっぱりで、ジュリウスほど勉強出来てもいないだろうから相談されてもあまり役には立たないと思うけれど、どんな些細なことでも純粋に頼ってもらえるのが嬉しい。それはあの頃との明確な違いだ。

「わたくし、ジュリウスに頼られて嬉しいんですのよ? お役に立てるかは……その、別問題でしょうけれど」
「……いや、聞いてもらえて助かった」

 ——ジュリウスと今以上の関係になりたいだとか、そんなことは思っていないけれど、せめてこの関係が続いてくれたらと願ってやまない。