優しさのかけら

 任務が終わってから立ち寄ったサテライト拠点で、仲睦まじい親子の姿を見た。
 母親と思しき金の美しい髪の女性と、その女性と手を繋いで歩く小さな女の子。パパ早く帰ってこないかな、なんて笑う子供とそんな子供を優しく撫でる女性。
 ——子供の頃の自分にはあまり馴染みのない光景。そしてもう二度とその機会が与えられることはない。
 ノルンの両親はフェンリルの研究者で、人類の為に自分たちに出来ることを、と様々な研究をしていた。彼らの存在はノルンにとっても自慢であったし二人に悪感情を抱いたこともない。
 ただ、忙しそうな両親に甘えることは出来ず、普段は寂しく過ごしていた。それだけだ。
 もしも自分が貴族の娘でなければ目の前の彼女のように母親と幸せそうに暮らせたのだろうか。なんて、自分はエーデルワイスの一人娘として生まれたことを嬉しく思っているし、呪ったことなどないから意味のないことではあるけれど。

「あの親子がどうかしたのか?」
「……どうしてそう思いますの?」
「いや、あの親子をずっと気にしていたみたいだからな」

 気にしていた。
 確かに否定出来ないな、とノルンは苦笑する。
 時折、仲の良い親子を見て羨ましくなる。自分は出かけてくるね、と言い残し何日も戻らない両親に、暫く会えなくなることを理解しながらも行かないでとわがままを言うことすら出来ない子供だった。
 いい子にしてるから早く帰ってきてね。辛うじてそんなことを言った記憶がうっすらとある。

「ああいう親子にはいつまでも心穏やかに過ごしてほしいと、そんなことを考えていましたの」

 このご時世家族がアラガミに喰い殺されるなんて珍しいことではない。
 神機使いの中にも親や兄弟をアラガミに喰われた人はそれなりにいるだろう。家族を奪ったバケモノへの復讐心から戦う道を選んだ人もいるかもしれない。

「戦えない人々の助けとなる為にわたくし達がいるのですけれど」
「……そうだな」

 本当の家族という存在への憧れはある。
 けれども自分にとってブラッドはかけがえのない、もうひとつの家族だから寂しくはないとノルンは笑みをこぼした。