夜の帳

「遅くまで付き合わせてすまない」
「いいえ、明日……というか時間的には今日ですけれど、わたくしも予定はありませんし、少しでもジュリウスのお役に立てたのでしたら嬉しいくらいですわ」

 時刻は深夜二時。アナグラの面々は既に寝静まっていて、ラウンジにはジュリウスとノルンの二人だけ。
 数時間ほど前、ジュリウスから唐突に相談を持ちかけられたノルンはこの時間まで付き合っていた。
 ブラッドの隊長として隊員の困りごとは助けるべきだ——なんていうのは建前で、確かにそういう気持ちもあるけれどそれ以上に好きな人から頼られたのだから少しでも力になりたい、というのが理由だった。
 自分でも浅ましい考え方だと思う。ノルンは深く息を吐いた。

「流石に続きは昼にしよう。……お前が迷惑でなければ、だが」
「迷惑だなんて。わたくし、どんな小さなことでもあなたの力になれることが嬉しくてたまらないくらいですのよ?」
「そう言ってもらえると助かる」

 過去の自分は力がなくて、一歩踏み出す勇気もなかったが為に一人で抱え込もうとするジュリウスの背中を見送ることしか出来なかった。
 今、ジュリウスが一人で何とかしようとすることがなくなったことも、頼る相手に自分を選んでくれることも、とても嬉しいとノルンは思う。
 ——彼に少しは認めてもらえたみたい。
 相談の内容は次の任務での立ち回りであったり、サテライト拠点で暮らしている子供たちのことだったり、様々ではあるが。
 今回の相談は聖域でブラッドが育てている作物に関するものだったが、ノルンも農業の経験はなく知識が乏しいことから二人で書物やデータベースから参考になりそうな記述を探していたところだった。
 そもそも、最初は作物の育て方さえ知らなかったのだから仕方ない。とはいえ間違った知識を披露するわけにもいかないし自分の無責任な発言でもうすぐ実りそうな作物を駄目にしてしまうわけにはいかない。

「結局ジュリウスに相談されたことに関してはまだあまり解決していないのは申し訳ないのですけれど……」
「いや、そんなことはない。一人でこれだけの資料を漁るのは時間もかかるからな」
「ふふ、こうして遅くまで調べ物をするのも楽しかったですわ」

 持ってきた本を片付けながら、ノルンは笑う。
 ——嗚呼、今がとても幸せだ、と。些細なことではあるけれどノルンは心からそう思う。
 最初はブラッドのメンバーと農業をすることに不安もあったし慣れないことの連続で怪我をしたこともあったけれど、今は農業を引き受けて良かったと思えるのだ。
 ジュリウスとこうして過ごす時間が出来たのだから、尚更だ。

「……ノルンは最近よく笑うようになったな」
「そうかしら」
「昔は笑わなかった、というわけではないが……俺は悪くないと思う」
「…………あなたに面と向かってそんなことを言われると、流石に少し照れるのですけれど……」

 ああ、自分はこの人に惚れている。
 そんなことを改めて実感させられる。
 いつだってジュリウスはずるい。