今日のアナグラは朝から慌ただしかった。
朝から複数のアラガミが外部居住区のすぐ近くで目撃され、極東支部に籍を置いていて手が空いている神機使いが総出で対処にあたることになったのだ。
現在は極東支部の部隊であるブラッドも当然出撃することになり、全ての作戦が終了したのは夜の帳が下りる頃である。
「ブラッドには特に難度の高い部分を任せてしまってすまなかった。第一部隊のメンバーが長期任務で出払っていてね。個々の戦闘力を見た上での判断だったのだが……」
「いえ、問題ありませんわ。ブラッドはみんなとても優秀ですもの」
わたくしが隊長であることが申し訳ないくらい、とノルンは苦笑する。
今回の任務でブラッドが任されたのは外部居住区に一番近い場所で暴れていた二体の大型アラガミだった。今のところ居住区や人間への被害はないが放置すれば大変なことになるだろう、と。
居住区に被害を出さないよう、守りながらの戦いである。大型ともなれば戦闘に不慣れな新人に任せるわけにもいかないし、アナグラの主力メンバーは大半が出払っていて残っていた第四部隊も近隣住民の避難を担当していたから戦闘慣れした神機使いがブラッドしかいなかったというのが理由だけれど。
ペイラー・榊に口頭で簡単に報告を済ませて部屋を出る。後できちんと報告書を提出しなければならないのだが、彼もある程度の状況は早めに把握しておきたかったらしい。
「隊長、用事は済んだのか?」
「……ジュリウス?」
部屋の前で待っていたらしいジュリウスにノルンは目をぱちくりさせた。
ブラッドのメンバーはそれぞれ部屋に戻って休んでいるものと思っていたし、こんなところに彼がいるとは思っていなかったのだ。
隊長、と未だに慣れない呼び方をされて心の奥が少しだけざわつく。
「何か急用でもありまして?」
「いや、急用というわけではないが……ロミオからこれを貰ってな」
「これは?」
「チョコレートだそうだ。何でも今日の任務のお礼にと外部居住区の子供たちがくれたらしい」
お前はこういうのが好きだろう、と手のひらに差し出されたのは一口サイズのチョコレート。ピンクやブルーの包装紙に包まれたそれはどこか愛らしい印象を受ける。
わざわざこれを届けるために待っていてくれたのだろうか。そんな風に自惚れてしまう。
——ジュリウスに恋をしていることなど、きっと彼は知らないだろうけれど。彼の何でもない些細な行動がとても嬉しい。
思わずにやけてしまいそうな表情を抑えてジュリウスにぺこりと頭を下げる。
「ありがとうございます。大切にいただきますわ」
「大袈裟だな」
「へ、変でした?」
「……いや、お前らしいなと思っただけだ」
どういう意味なのか問おうとして言葉を飲み込んだ。彼が穏やかに微笑むのだから、きっと悪い意味ではないのだろう。
ジュリウスのそんな表情が好きで、彼がいてくれるだけで幸せだった。