グラスいっぱいの氷と冷たい紅茶。それからクッキーを皿に盛り、テーブルに並べる。
たったそれだけの簡素なティーパーティー。本当はもう少し色々と用意したかったけれど、これくらいシンプルなのもたまには悪くはない。
「今日の紅茶はいつもより少しだけ良いものを選びましたの。もちろん、普段の紅茶も妥協しているというわけではないのですけれど——」
このご時世なのだから最高品質の紅茶や菓子を常に用意するのは難しいし、入手できるものはどうしても限られてくる。その分淹れ方にはこだわっているし、お茶会の時間がつまらなかったとは思われないよう努力しているつもりだけれど。
ノルンは小さく息を吐く。ジュリウスとの二人きりのお茶会は決してはじめてではない。はじめてではないのだけれど、やっぱりそわそわと落ち着かない気持ちになる。
意中の相手と二人きり。相手は恐らく自分のことを妹のような存在としか認識していないだろう。それでも好きな相手を前にしていつも通りに振る舞えるタイプではない。
——普段は平気なのだけれど。
例えば任務中、ジュリウスは自分の背中を預ける仲間だし自分は隊長として部隊を率いる立場にある。重要な判断を迫られる場面も多く他人をそのように意識するタイミングは殆どない。
作戦会議の時も自分たちにとっては単なる仕事の一環なのだからあまり恋や愛に囚われるようなこともない。
プライベートな時間も他の人たちが近くにいるときは自然体で振る舞えているほうだと思う。たまに不意打ちで意識してしまうような出来事に遭遇することもあるけれど。
二人でお茶会をしているときだけ、ずっとそわそわしている。
それでもお茶会も、お茶会にジュリウスを誘うこともやめないのは彼と過ごすこの時間が大好きで大切なものだからだ。
「お前は、今日はいつもより機嫌が良さそうだな」
「そうかしら」
「ああ。普段が不機嫌というわけではないが……いつもより楽しそうに見える」
「……あなたの目に映るわたくしが楽しそうならそれはとても喜ばしいことですわ」
ジュリウスと過ごした日々の中で特に強く心に残っている記憶はその大半が酷く鬱々とした苦しいものだ。彼の前では涙を流さないように努力していたが決して綺麗な表情はしていなかっただろう。
そんな苦い記憶を忘れたい、忘れてほしいとは言わないけれどその苦しい思い出以上に楽しい日々の記憶を増やしていきたいと思っている。
だから彼の目に映る自分の姿がきらきらと輝く美しい表情を浮かべているのなら、それはとても嬉しい。あの頃よりも幸せだという証明にもなる。
「わたくしはこうやってお茶をする時間が大好きですもの。……何より、ジュリウスがいるのですから」
ふわふわと浮ついた心のまま、そう漏らす。
彼の隣を歩きたいだなんてそんな烏滸がましいことは望まないけれど……彼の長い人生のほんの一瞬だけでも彩りを与えたい。自分とのお茶会がいつか遠い未来、少しでも楽しかった思い出として残ればこんなに嬉しいことはない。なんて。
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