「成すべき時に成すべきことを成せなかった貴方は、今更……何故ここにいるのですか?」
ラケルの冷たい呪いのような言葉が響く。
彼女の言うとおり、ジュリウスを手放したくないのならばもっと早くから行動すべきだったのだ。
あのとき、ジュリウスとロミオを引き止めることが出来なかったからロミオは命を落とし、ジュリウスは黒蛛病に罹った。
ジュリウスがブラッドを抜けたとき、それを止めなかったから彼はラケルに利用され特異点となり、螺旋の樹へ残らねばならない状況に陥ってしまったのだと自分でも分かっている。
何度も自分に問いかけたことだ。何故受け入れてしまったのか、と。
大切な家族の犠牲で成り立つこの世界で生かされている自分が惨めだった。
「でも、わたくしはもう諦めませんの。ジュリウスが助けを求めているのならば必ず救いますし、出来ることなら彼を連れて帰りますわ」
以前の自分ならラケルの言葉で心が折れていたかもしれないけれど。
ジュリウスが苦しんでいる。だから此処まで来たのだ。今更どんな言葉を囁かれても引き下がるつもりはない。
「あなたからジュリウスを取り戻す。わたくしの今の願いはそれだけですの。だから何を言われたって揺らぎませんわ」
またジュリウスを諦めてしまったら、それはきっと自分にとっては世界が終末を迎えてしまうこと以上に苦しいことだ。
ラケルが小さく笑う。背筋が凍りそうなほどの狂気を孕んだ笑みにゾッとした。
それでも、だ。彼女の望み通りの展開にはしない。絶対に。
「……終末捕喰なんてジュリウスは望んでいませんでしたもの」
彼はただ、アラガミのいない世界を望んでいた。
終末捕喰による再生とは違う、今この世界に生きる人々がアラガミに怯えることのない世界を作りたかったのだと、少なくともノルンはそう感じた。
「あなたへの恩はありますけれどもジュリウスを苦しめているあなたを許しませんわ、ラケル博士」
握りしめていた神機でラケルを振り払う。もう、彼女に惑わされない。