母と子

「おかさん、おかえり!」

 任務から戻るとフィムがバタバタと駆けてくる。
 訳あってイノリに助けられたフィムはそれ以来随分とイノリに懐いていた。その姿がまるで親子のようだ、と言い出したのは誰だったか。
 イノリのことを母親のように慕うフィムを見ていると少し不思議な気持ちになる。
 ——イノリは、母親に捨てられた子供だった。AGEになる前も、AGEとなってからも、親という存在を知る機会などなかった。
 自分が母親のように振る舞えているとは思わないが、フィムに抱くこの感情が母親が我が子に抱く「母性」と同等のものであるのなら皮肉だと思う。
 フィムに慕われることは嫌ではなく、とても嬉しいくらいなのだけれども。

「フィムは本当に『お母さん』のことが好きなんだな」
「うん!」
「……フィムが私を好きでいてくれるのは私も、嬉しい」

 フィムの頭をそっと撫でてやるとフィムは顔を綻ばせる。小さな子供が無邪気に笑うその姿を見て胸の奥が温かくなる程度には自分にもまだ人らしい感情が残っているようだ。
 彼女の笑顔を守る為ならば、もう少し危険な任務も頑張れる気がする。

「ところで思うのだけど、私がフィムのお母さんなら『お父さん』は誰なの?」
「は? 誰って……」
「やっぱりユウゴ?」
「やっぱりって何なんだ、やっぱりって」

 明らかに動揺したようなユウゴの声。
 ジークは父親というよりは兄だし、リカルドのことはまだよく知らない。だったら自分たちの中で大黒柱のような存在であるユウゴが父親ポジションなのかと思ったのだけど、なんて淡々と続けるイノリにユウゴは深い溜息を漏らした。
 そんな二人を見て、フィムは首を傾げる。

「……俺は父親なんてガラでもないだろ」
「それを言うなら私だって、お母さんってタイプではないと、思う」
「フィムは特にお前に懐いてるからな」
「…………私はユウゴがフィムのお父さんだったら嬉しい、ってちょっと思っただけだけど」

 何を言い出すんだこいつは。
 イノリの突拍子のない発言は今に始まったことでもないけれど、そんな彼女に振り回されている。