そういう雰囲気になったわけではなく、これは不慮の事故である。
何故かレンに押し倒される形になってしまっている自分の状況を、オトハはそう結論付けた。
「オトハさん」
「……っ、な、何よ……」
「どうして顔を逸らすんですか」
どうして、なんて。
この状況が恥ずかしいからに他ならない。寧ろレンがいつも通りの表情であることのほうが不思議だ。
こんな状況なのに、意識しているのは自分だけなのだろうか。そう思うと無性に苛立つ。
顔を逸らしたままオトハは小さく息を吐いた。
「真っ赤ですよ?」
「誰のせいだと……っ」
「さあ、誰のせいでしょうね?」
レンはクスクスと楽しそうに笑う。嗚呼、これはからかわれている。確実に。
そもそも私は何故こんな奴を好きになってしまったのだろう。彼にはかなわない。
「い、いいから早く離れなさいよ……!」
「嫌です」
「……ふざけてると怒るわよ」
「オトハさんは嫌なんですか?」
「だ、誰も嫌だとは言ってないでしょ……」
良いとも言っていないのだけれど。
男女の性差が今はただ憎い。
レンを押しのけることが出来ないのは性別のせいなのか、それとも心のどこかで人に見られたらあらぬ誤解を生みそうなこの状況を受け入れてしまっていて拒絶する気がないからなのか。
……後者である可能性なんて考えたくもない。たとえ素直じゃない奴だと呆れられても。
「……オトハさんのそういうところ、僕は嫌いじゃないですけど」
「…………あんた、変わってると思うわ」
「オトハさん、意外とわかりやすいですから」
もうこの際どうにでもなれ。
顔はレンのほうへ向けないままぽつりと呟いた。