ツイッターログ1

【1】

 私にとって、世界は無機質で色のない作り物の——箱庭のようなものだった。そんな自分の世界を変えたいと、もっと広い世界を知りたいと思ったことがないわけではない。
 けれども私を構成する世界を飛び出すには私はあまりにも幼すぎた。だからこの世界で朽ち果てるのだと、漠然とそんなことを考えながら生きていた。

「考え事か?」
「……厄災が発生する前のことを思い出してた、だけ」

 あの日、私たちの箱庭同然だった世界は崩壊した。仲間は大勢死んだし、私たちが生き延びたのも奇跡だったのだと思う。
 あの時生き延びた結果AGEになってしまったのは事実だけれど、お陰で信頼できる家族を得られたのだから悪いことばかりではなかった。

「私の世界が色付いたのはユウゴに出会えたお陰かもしれない」

 本人にはこの意味を理解してもらえないだろうけれど。私にとってAGEになったことは決して嫌なことではない。

【2】

「……っ、ユウゴ、そっちに行った!」
「了解だ!」

 灰域種アラガミとの交戦はこれで何度目だろう。捕喰攻撃を真正面から喰らい、体力的にも限界が近い。それはアラガミも同じらしく、ふらつきながら餌場へ逃走する。
 勝てないと判断したら撤退するつもりだったが、ユウゴから何の指示もないということは倒せると確信しているのだろう。
 私はユウゴの判断を信じているし、彼が勝てると判断したのならどれだけ無謀なことであってもそれを事実にしてしまうまでだ。

「お願い!」
「——これで、終わりだ!」

 アラガミのほうへ駆けるユウゴを後ろからサポートする。ユウゴの振るった神機は的確にアラガミの顔面を抉り、それがトドメとなったのかアラガミは動かなくなった。
 何度も経験しているとはいえ楽な戦いではなかったけれど、今回も無事に生き残れたことに安堵する。ハウンドのエース、なんて扱いを受けていても私はただのAGEに過ぎない。

「……ユウゴと一緒だと戦いやすい。私も早くユウゴに追いつかないと」
「どう考えてもハウンドの中じゃお前が一番戦闘力高いだろ」

 ユウゴがそう言うのなら、そうかもしれない。
 でも私にとってユウゴは光そのもので、私の道を照らす存在。今も昔も私にとってユウゴはそんな人だった。

「私にとってユウゴが戦い方のお手本だから」

 使っている神機こそ違えども、立ち回りは参考になるものも多い。
 ——ユウゴは知る由もないだろうけど、ペニーウォートにいた頃からずっと彼が目標だった。

「そろそろ帰るか」
「ええ、帰りましょう」

 私はユウゴのその在り方を好ましく思う。

【3】

「ユウゴは私を初めて人間として扱ってくれたでしょう?」

 彼と出会った日のことは今でも鮮明に思い出せる。イノリという、ただ使い潰されて死んでいくだけだった個体を一人の意思ある人間として扱ってくれる人に出会えた日。忘れる筈もない、大事な思い出。

「……感謝しているの。きっとユウゴがいなかったら今の私は存在しなかったから」

 ユウゴと出会うことがなければ自分はどうなっていたかわからない。少なくとも今の自分とは違っていただろう。

「何かあったのか?」
「別に、なにも。私にとってユウゴの存在は大きいと今更ながらに実感した、だけ」

 イノリ・ペニーウォートを人間たらしめる要素である、なんて大袈裟かもしれないけれども。きっとユウゴにとって特別なことをしたわけではなく、あの日あの時偶然あの場にいたのが自分だっただけで、例えばそこにいたのがジークやキースだったとしても同じように接したに違いない。

「……そんなユウゴだから、私も信頼できるのだけど」

 重いと言われてしまうかもしれないが、自分を人間として扱ってくれるユウゴの為に生きようと思えるのだ。

【4】

 少なくとも自分にとって名前は個体を識別する為のもので、それ以上の価値などないものだった。
 極論、1号だとか名無しだとか、そんな名前でもいいとすら思っている。両親から名前を与えられる、なんて経験があれば違ったのだろうか。私にも——というコードネームは与えられていたけれど本名と呼べるものはなかった。
 人間は普通名前を持っていて、名前のない人間は変なのだと知って適当につけたイノリという名前にもあまり拘りも愛着もない。

「……でも、ユウゴが名前を呼んでくれるのは好き、かも」
「は?」
「だから、名前」

 この幼馴染は出会ったときからイノリ、と呼んでくれる。今まで道具のように扱われ、人として接してくれる相手など存在しなかった私の小さな世界において、イノリと呼んでくれるユウゴの存在は衝撃的だった。

「……イノリは時々、そういうことを突然言い出すよな」
「変だった?」
「それがお前の個性なんだろ」

 ユウゴは知らないだろうけれど、私にとってユウゴは人間としての手本でもある。だから彼に変だと思われるようなことはしたくない。
 人間らしい生き方をしてこなかった自分には何が変で何が普通なのかよくわからないことも多いけれど。

「ユウゴが呼んでくれる名前だから、昔よりは名前に愛着を持つ気持ちが分かるようになった……かも」

 好き、とまでは言えないけれどユウゴがこの名前を呼んでくれることが心地良い。