歪み

がしゃん、という何かが割れる音が響く。
またか。思わずツクヨミは息を吐いた。自分の「仲間」と呼べる者の中でこうも頻繁に何かを壊す人物は一人しか思い当たらない。
よくもまあこれで誰かに仕えることが出来るものだ。誰に仕えているのかは知らないけれど。
ツクヨミも貴族である。実家には執事もメイドもいたし彼らが働く姿も見慣れたものだ。しかし彼ほど仕事が出来ない使用人を見たのは初めてだ。きっとこんなドジ、自分だったら雇ったりはしない。
尤も、それが本来の姿であれば、の話だが。

「お前なー。食器を片付けるくらい普通に出来るだろう?」
「す、すみません……ドジで言われた仕事もきちんとこなせなくて……」
「どうだか。お前のドジからは俺と同じ匂いを感じる」

——俺と同じ匂い。
無理に作った、紛い物の匂いだ。もちろん気のせいかもしれないし作ったのはドジとは違う別のキャラかもしれないが。
ツクヨミ自身、社交的で明るいキャラを演じているにすぎない。正確には過去に死んでしまった自分を違和感のないように演じている。

「……そういうツクヨミさんは、何故演じているんです? それに僕の前ではあまり演技しませんよね」
「さあな。ただ、お前はこっちの俺を見ても言いふらしたりしないだろうし」
「まあ、誰にだって知られたくないことはありますから。僕もツクヨミさんの前だと普段の僕がどちらの顔をしていたか、忘れそうになります」

隠すことをやめたのだろうか。いつもとは違う、淡々とした声。
ツクヨミとしては仮にマーニが世間を騒がせる凶悪な殺人鬼でもただの執事でも、此方に危害を加えない限りは誰かに突き出したり詮索したりするつもりはないけれど。
他人に興味などない。たとえそれが仲間であっても。

「僕は化けの皮を被った種族ですよ? どちらが素顔なのかは秘密ですけれど」
「……まあどっちがお前の本当の姿だとしても、俺やあいつらにとっては普段のお前が本当の姿になんだろ」

見慣れているほうが、自分にとっての事実。単純明快な話だ。