程遠い希望

ニンゲンは自分勝手で好きではない。
ブラウンにとって世界のすべてとも言うべき存在の少女はある日ニンゲンに連れ去られ、ゴミのような扱いを受けた。彼女を研究に使い、怪しげな薬を投与し、挙句の果てに人気のない場所へ捨てたニンゲンのことは今でも許せない。
今のところ進化しないと思われているポケモンをどうにか強化しようとしていたらしいその実験・研究の成果は悲惨なもので数年に渡り体を弄くり回された少女は記憶と感情を失い、肉体の成長まで止まってしまった。
過去も未来も奪われたその少女を守ってやれなかった後悔と、今度こそ必ず守るという誓い。それがブラウンを突き動かす全て。

「…………じっとしているよりは外部から刺激を与えたほうが失った記憶や感情を取り戻すのに効果的だと思ったが」

ルロッドを連れ旅に出て数日。すぐに効果が表れるとは思っていないが何の変化も手がかりもない。
感情はともかく失ってしまった記憶を取り戻す、ということに抵抗がないわけではないけれど、実験に使われる以前の明るい思い出はきっと彼女に必要なものだ。
孤立していたブラウンを陽の射すほうへ導いてくれた、それがルロッドという少女だった。ニンゲンの実験に巻き込まれ、自分さえも失くしてしまった彼女は――勝手な思い込みかもしれないがそれでもブラウンには比較的心を許してくれているように思う。
本来なら既に少女と呼べる年齢ではないルロッドが未だに10代の幼い少女の姿をしている事実はブラウンを苦しめる。その姿は自分たちがまだ幸せだった頃と殆ど変わっていない。

「……前方50メートル先に敵。殲滅する」
「…………了解。言っても無駄だとは思うがルロッド、深追いはしないでくれ」

ルロッドの明確な意思を感じる数少ない瞬間。
彼女はまるで戦闘をする為だけに作られたロボットであるかのように敵の気配を察知し、殲滅しようとする。それが実験による後遺症のようなものであることは明らかで、一度スイッチの入った彼女を止めるのは困難だ。
以前は温厚で戦闘とは無縁だった少女が無表情で敵を薙ぎ払う姿を初めて見たときは心臓が痛くなったものだが既に見慣れてしまった。
否、見慣れたと言うのは語弊がある。今だって苦しいし、出来れば見たくはない。ただ取り乱すことなく、表面上は冷静に見えるよう取り繕えるようになった、というのが大きい。



「戦闘終了。……弱すぎる」
「…………敵が弱いというよりルロッドが強すぎるだけなんだが、まあいいか」
「手加減はした」

機械的な、感情のこもらない声で淡々と話すルロッドに心臓が抉られたような気持ちになる。
嗚呼せめて、彼女が争いとは無縁の生活を送れるよう自分が彼女を守らなければ。その為ならば何だってする。

「……行こう、ルロッド」

もしも地獄へ続く道だとしても構わない。