淡雪の恋

遠く離れていく少女を見送り、シキは初めて自分の感情を自覚した。
——嗚呼、ボクは彼女に恋をしていた。
それでも彼女には帰るべき世界があり、大切に思ってくれている家族や友人がいる筈だ。自分に彼女を引き止めるだけの権利はない。
もう少し早く気付いていれば何か変わったのだろうか。……否、それはない。きっと彼女のことが好きなのだと気付いていたとしても、それを告げることはなかっただろう。
後悔はない、と言えば嘘になるけれど。
本来なら出会う筈のない世界の人。彼女と出会って強くなれた。

*

「あのね、シキ。……今だから言うけれど、きっと私のほうが先に君を好きになったよ」

メルがこの世界に戻ってきて数日。
わがままだとしても彼女に戻ってきてほしい一心で行動し、手を伸ばした。あのときに勢いで告白じみたことをしてしまい、結果的に両思いであることが判明したのだが……。
ふと、そんなことを口にするメルにシキは首を傾げた。

「いきなり人間だ、なんて言っても怪しいだけだし切り捨てられてもおかしくなかった。そんな私を助けてくれたシキは私にとって王子様同然だったの」
「……ボクはただ、困っている女の子を無視できなくて。もちろんメルが男の子だったとしても助けたと思うけど……メルは初めての友達だったから、友情がいつの間にか恋愛感情に変わっていたことに自分でも気付かなかった」
「私はまだシキに話していないこともいっぱいある。……それでも君は私を受け入れてくれる?」
「誰だって人には言えない秘密も話したくない事情もある。ボクなんてキミには本名すら隠しているくらいだから、逆にメルは本名も明かしていないボクを受け入れてくれるのか不安でたまらない」
「自画自賛みたいで恥ずかしいけれど、私はシキって名前も好きだよ」

外の世界を知らないメルにとってシキとの出会いは運命で、彼は世界を教えてくれた恩人だった。
そして天涯孤独だったシキにとってもまた、メルとの出会いは特別なもの。
どうかこれから先も、末永く。