名前の意味

 アイギス。それはまだ幼かった少年に与えられた仮の名前だった。
 ——あれから十年以上が経過し、親から貰った名前を呼ばれることもなくなった今となっては元の名前なんて覚えていないけれど。

「私は卿のアイギスという名も好きだが、本名を思い出せないというのは矢張り辛いものなのだろうか」
「どう、でしょうね。少なくとも僕自身はアイギスと呼ばれることに抵抗はありませんし……本名を思い出したい、とも思っていない気がします」

 六歳の頃に養父となる男に与えられた名前だ、とアイギス自身が言っていたことを思い出す。
 施設に預けられていた子供は引き取られた先で感情を抑制され、本名を名乗ることも許されない環境で大人になったという。

「アイギスが気にしていないのならば私は特に何も言うつもりはないが」
「……僕は親の顔も覚えていませんから、覚えていたらまた違ったのかもしれない。薄情かもしれませんが」
「幼い頃の記憶なんて薄れても仕方がない。私も、私の夢のきっかけになった騎士の顔も覚えていないのだし」

 その人の始まりになるものが名前であるならば今のアイギスが生まれたのはその名前を与えられた日と言っても過言ではないのかもしれない。そんなことをぼんやりと考えた。