幼かったマゼンタには自分の身を守る術などなかった。
王族として生まれたマゼンタに近付くことが出来る存在なんて限られていたけれど、それでも誘拐されかけたことは何度もある。
信用出来る使用人だと思っていた大人に空き部屋に連れ込まれたりもした。
幼いながらに他人を信用してはならないのだと悟ったマゼンタは十歳になる頃には他者に心を許すことをやめてしまった。
「その生き方は、あまりにも悲しくないかい」
そんなことを言ったのは自分と同じ年頃の少年だった。
近隣の国の王族を招いたパーティーに招待され、渋々参加した場で出会ったどこかの国の王子。
正直、マゼンタにとって興味のない相手だったので名前さえよく覚えていない。
「ならばお前が私を助けてくれるのか? 他人を信じた結果、酷い目に遭う私を」
信じていた人に裏切られる経験はもう散々だ。だから誰も信じない。寄ってきた相手は全員突き放す。心が折れるまで、徹底的に。
それでも諦めない相手がいたときに自分がどう対応するのかは分からないけれど。
「……自分の身は自分で守るしかない。子供であろうと。それが出来なかった私がどんな仕打ちを受けたと思っている?」
「…………ごめん。でもやっぱりその生き方は苦しいと思うから」
「世迷言だな。私はこの生き方を自分で選んだ。他人にとやかく言われる筋合いなどない」
もしも自分が王族ではなく、大した地位も財産も持たない村娘に生まれていたならば、平穏に生きられたのだろうか。たまにそんなことを考えて、所詮は夢物語だと苦笑する。
——それに、受けてきた仕打ち自体は許し難いが王族という立場が煩わしいと思ったことは意外とないのだ。
父と母のことも好きだったし、彼らが必死に我が子を守ろうとしてくれたことは知っている。
これは、忙しい両親の負担にならぬようにと選んだ身の守り方でもある。
「お前には理解できないだろうが、恐らく理解出来ないのは幸せなことなのだろうな。私は決して自分のことを不幸だとは思わないが」
「……そう、だね。正直僕には理解し難い。それは王族として生きる上では枷にしかならないものだと思うから。でも、理解したいとは思う」
「誰も理解を求めてはいない」
最初から自分に向けられる善意も好意も存在していないのだと思いながら生きたほうが楽だった。
その結果自分が孤独になってしまったとしても。