その日は雪が降っていた。
肌を刺すような冷たい風と、降り積もった雪のせいで人の姿は疎らだった。元々、観光地というわけでもない場所だけれど。
◇
「まあ、本当に田舎の寂れた町ではあるんだが、いつかオランジュと一緒に行ってみたいと思ったんだ」
王族として生まれ自分とは違う世界を生きてきたオランジュを連れていくような場所でもないかもしれないが、とメテオールは心の中で付け加える。
夫婦で過ごす午後三時。ふとお互いの子供時代の話になった。子供の頃に好きだったお菓子の話とか、家族との思い出とか、恥ずかしい失敗とか、そんな話だ。
——孤児として生きてきたメテオールは新しい家族が出来るよりも前の記憶にしあわせな思い出など殆どなかったが、そんな中で何となく記憶に残っていたのが孤児だった頃にふらりと立ち寄った、寂れた田舎町だ。
特に名所があるわけでもなく、有名なレストランがあるわけでもない。娯楽施設すらも殆どない場所だった。夫婦の旅行先として選ぶことはまずないような町。
「一緒に、ですか?」
「何でもその町で冬に咲く花が綺麗なんだとか。どんな花なのかは俺も知らないけど、オランジュと一緒に見に行けたら楽しそうだなと。……まあ、流石に今年は無理かもしれないが」
メテオールはちらりと窓の外を見る。この数日、珍しいくらい天気が荒れていた。今も雪が降っていて外の景色もよく見えない。
この天気はもう暫く続くと言っていたし、落ち着いた頃には花の見頃も過ぎているかもしれない。そもそも立場あるオランジュを旅行に連れ出すには些か急だ。
自分も昔ほど自由で気楽な立場でもない。
「それでは来年でしょうか」
「……そうだな。忘れてなければ、来年にでも」
「ふふ……楽しみにしていますから忘れないでくださいね?」
一緒に、か。メテオールはその言葉を噛み締める。
子供だった頃、全てを失って自分は死ぬまで一人で孤独に生きていくのだと思っていた。それが今では誰かと共に生きて、未来の約束が交わせるようになった。
「他でもないオランジュとの約束なら俺が忘れる筈もないだろう?」
にこやかに笑うオランジュの表情を目に焼き付ける。
明日も来年もその先も、彼女の隣にいられるのならばきっと自分は世界で一番幸せだ。
*おぼろ様宅オランジュさんお借りしました