未来は灰色

 この停滞した世界においても、人間という種は逞しく生存していた。
 とはいえ人間に適した環境など殆ど残っていない世界は人間が生きていくには厳しく、その数を減らしつつある。
 小さな隠れ里に身を寄せ合い、力を貸してくれるポケモンたちと共にひっそりと暮らしているのが一般的だ。

「ルーチェ……貴女のその力がきっと世界を救うのです」
「お父さん、お母さん……私は絶対にこの世界を変えてみせるわ」

 ルーチェ、そう呼ばれたまだ幼い少女の瞳には力強い光が宿っている。
 この世界で強い意志を持って行動できる者はほんの一握りだ。陽が昇ることもない暗い世界で明るく前向きに生きろ、というほうが難しいのだろうけれど。
 ――ルーチェ。光を意味する言葉を与えられた子供。この世界を正しく光で照らすと信じてその名を付けられた。
 名前の通りに成長してくれて嬉しい、と彼女の両親は微笑む。

「……しかしお前には本当に悪いことをした」
「いいのよお父さん。決めたのは私だし、お父さんとお母さんのことは恨んでない。私にとって二人は今でも一番尊敬できる人よ」

 時空の叫び、と呼ばれる特殊能力がある。
 詳しいことはまだ判明していない。ディアルガが暴走した自分を誰かに止めてもらう為に自我が完全に呑まれてしまう前に残していた能力であるという説も、大昔に時の歯車を守っていた存在が有していた能力だという説もある。
 ある日その能力を以て時の歯車を調査することで世界を変えることが出来るのではないか、と思いついた一部の人間たちが時空の叫びを使える存在を作る研究に着手した。
 そして時空の叫びを扱う為の人間としてその研究に選ばれたのがルーチェであった。
 誰かに悪用されることのないよう信頼できるパートナーがいなければ発動出来ないという制限こそかけられているが、ルーチェは世界を救う為の駒として後天的に得体の知れない能力を植え付けられたのだ。
 研究を受けていた頃の記憶はあまりない。痛みと苦しみをぼんやりと覚えている程度だ。それでもその選択に悔いはなかった。

「私はこんな世界、嫌だから。私の力で少しでも世界が変わる可能性があるのなら、あの痛みも無駄ではないわ」
「ルーチェ……」
「それじゃ、行ってくるね。お父さん、お母さん」

 星の停止を迎え、壊れてしまったこの世界を救えるのならばどんな痛みにも耐えられる。

*

「ルーチェ、何か分かったか?」
「……こっちは駄目ね。時の歯車とは関係のない場所なのだと思う」

 大きな岩に触れ、目を閉じる。
 時空の叫びを発動することに集中する――が、あの特徴的な目眩のようなものは起こらない。どうやらまたハズレらしい。

「時の歯車のありそうな場所は目星をつけているとはいえ、本当に存在しているとは限らないもの。ひとつずつ、時空の叫びで確認していくしかないわ」
「まあでも、この行動も無駄じゃない。いつ妨害されるか分からない以上、出来るだけ急ぐべきだとは思うがな」
「ねぇ、ジュプトル。私の相棒があなただったから、私は頑張ろうと思えるのよ」

 一人でも立ち上がられる強い存在を目指してきたけれど、結局ジュプトルという相棒がいなければ孤独な戦いに耐えられなかったかもしれない。
 だからこそ一緒に朝日を見よう、と誓ったのだ。

「私のパートナーがあなたで良かった」

 ジュプトルがいてくれたから、輝いていられる。