まだ幼い子供だった頃。何度も酷い目に遭って、泣いて叫んでそれでも助けてもらえなかった記憶。両親以外で助けてくれたのは古くから両親の身の回りの世話をしていた一部の使用人くらいだった。
彼らも両親への恩義から自分を助けただけかもしれないし、自分を酷い目に遭わせた大人たちと同じようにもしかしたら裏があったのかもしれない。その頃にはマゼンタという少女は既に他人を信用出来なくなっていた。
父が亡くなったのはほんの数日前のことだ。
表向きには病気で、ということになっているが事実は違う。父は何者かに暗殺された。いつかそんな日が来るのだろうと覚悟していたが思っていたよりも早く起こった悲劇だった。
元々体が強いほうではなかった母は父の死がきっかけで体調を崩しがちになった。だからこそ、なのだろう。十代も半ばであったマゼンタはこれまで両親が背負ってきた国民からの期待を向けられるようになった。
「マゼンタ様はまだお若い。この国を背負うには未熟なのでは……」
「……そもそもあの方は我々のことも、国民のことも、何も信じてはいない」
もう何度目か分からない使用人たちの言葉にマゼンタは深く息を吐いた。
王に生まれたたった一人の娘。この子は大人になったら国を背負うのだと物心つく前から期待され、蝶よ花よと大切に育てられた。……それだけであれば、他人を信用することが出来ない女が誕生することなどなかったのだ。
確かに期待されていた。大切にされていた。少なくとも両親からは愛されていただろう。だが、マゼンタという子供のことをマゼンタとして見てくれる人はほんの一握りだった。地位や名誉を目当てに近づいてきた人たちに何度も騙されて傷つけられた。そのような出来事を理由に心を閉ざしたマゼンタを周囲の人は非難するばかりだ。
「母様、私は暫く留守にしますが決して部屋には誰も入れないでください」
「……でも、」
「使用人でさえ簡単に信用出来るものではないでしょう。私が何をされてきたかお忘れですか。それに、父様がされたことも」
一部、本当に一部だけ例外があるとは思う。自分に何の益もなくとも忠誠を誓い、世話を焼いてくれるような使用人がいないわけではないだろう。
しかし自身の目的の為に何年もかけて信頼を得ようとする者もいるかもしれない。マゼンタが城にいる限り、母に危害を加えるなど絶対にさせないが四六時中彼女を守り続けることも不可能だ。
父が暗殺された以上、母の食事に毒を盛る輩くらいは出てきてもおかしくない。体調を崩している母が毒で衰弱して命を落としたとしても心労で倒れたようにしか見えないだろうから、もしも王家を害する存在が身近にいるのならタイミング的にもちょうどいい。
「……マゼンタ、あなたには苦労をかけますね。それにあなたを孤独にしてしまった」
「いいえ、母様。私は自分でこの道を選びました。この生き方に後悔はありません。それに王とは元来孤独な生き物だと思っています」
父も、もっと前の世代の王たちも、恐らくはずっと孤独だったのだろう。それが悪いことだとは思わない。
「——私は、一人で構わない」
それを寂しいと感じる心は既に死んでしまった。