決して好きで王族に生まれたわけではないが、この身分に生まれてしまった以上避けられないイベントは幾つもある。
国の記念日を祝うパーティーもそのひとつで、近隣の国から王族や貴族を招いて盛大に祝うらしい。子供の頃から何度も参加させられたパーティーだがマゼンタにとっては退屈な行事でしかなかった。
会場は贅沢に飾られテーブルには豪華な食事が並んでいる。煌びやかな衣装に身を包んだ人々が談笑している光景をマゼンタは遠巻きに見ていた。あの輪の中に入るなど、冗談ではない。
何を考えているか分からない連中が腹の探り合いをしている。腹の底なんて他人に見せてやるつもりもない。
パーティーだから、と半ば強引に着せられたドレスを引き摺りながらマゼンタは深く息を吐いた。他人にとっては夢のような世界に見えるかもしれないが、自分にとってはこの世の地獄と言っても過言ではない。
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地獄のような世界を抜け出せば、そこは別世界のような静けさだった。関係者以外は立ち入り禁止だし、関係者は大半がパーティーに参加しているのだからひと気も疎らだ。
元々王族として振る舞うことが——更に言うなら他の王族や貴族と会話することが好きではないマゼンタにとっては此方のほうが穏やかな気持ちで過ごせる。
「マゼンタ様!」
「ジルベルトか」
会場の外で待機を命じていた執事に名を呼ばれ、意識を引き戻される。
出来ることならば使用人を連れ歩きたくはなかったのだが護衛役として誰か連れて行くようにと言われ他の有象無象を選ぶくらいならと同行を許可した。目の前の青年であればまあ、ある程度は信用して任せられる。
——信用している、などと本人には口が裂けても言えないし伝えるつもりもない。きっと伝えなければならないほど重要なことでもない。
もう帰るのかと問う男に小さく頷き歩き出す。パーティーはまだ終わっていないが少し顔を出してやったのだから十分だろう。
「……お前は、私を裏切ってくれるなよ」
なんて、言うまでもないことではあるけれど。彼に裏切る意思がほんの少しでもあるならば、もっと早い段階で実行に移せた筈だ。
……自分に仕えているこの男が万が一にでも裏切る姿は想像出来ないし、あまりしたくない仮定の話ではある。今更信じている、頼りにしていると笑顔で言えるような可愛げは生憎持ち合わせていない。
*琴音様宅ジルベルトさんお借りしました!