——ジュプトルと逸れた。
お互いに歴史改変を目論んで命を狙われている身だ。身を守る為に敢えて別行動を取ることは珍しくなかったし、追われている最中に逸れてしまったことも一度や二度ではない。
ニンゲンである自分に直接戦う力はないけれどジュプトルは並のポケモンよりも強いし彼ならばヨノワールの手先であるヤミラミくらいなら難なく蹴散らせるだろうと信頼もしている。
だが、この状況は非常によくない。私はギリ、と下唇を噛んだ。
「ほう、まだ抵抗する気か」
「……お生憎様、この程度で諦めるくらいなら最初から命を賭けようなんて思っていないの。私も、ジュプトルも……っ」
ヨノワールの攻撃を受けた私は立ち上がることも出来ずに床を転がる。彼の動きを一瞬でも封じられるようなアイテムは持っていないし、当然ながら反撃の手段もない。
私にあるのは「時空の叫び」と呼ばれる特殊能力くらいだ。この力も時の歯車の調査には役立つが敵に捕まったときには何の役にも立たないし、そもそも信頼できるパートナーがいないと発動も出来ない。
ジュプトルと逸れた末にヨノワールに捕まってしまうなど、本来ならあってはならない失態だ。とはいえ、私もジュプトルも一人になったとしても使命を完遂すると心に誓った。ここで私が処刑されたとしてもきっとジュプトルは前を向き、過去へと渡るだろう。
となりに私がいないだけで絶望し、全てを諦めてしまうなら明るい未来を目指そうとすることもなかった。
「命が惜しいとは思わないのだな」
「……今更でしょう、そんなこと。元々、歴史を改変した瞬間に消えてなくなる命だもの」
「解せないな。お前とて、消滅が恐ろしくないわけではないだろう?」
暗黒の未来世界で生まれ育った私にとってこの世界は故郷で、こんな暗い世界であっても楽しい記憶のひとつくらいはある。
当然家族も友達もいるし、彼らの命をどうでもいいと思っているわけでもない。それでも私はこれから先、新しく生まれてくる命が前を向いて生きられる世界こそが本来の世界の在り方なのだと思う。
「ヨノワールに理解してもらいたいわけではないけれど、あなたが味方でいてくれたらきっと心強かったでしょうね」
「お前がたった一言、歴史改変を諦めると口にすればいい。そうすればディアルガさまもお前を悪いようにはしない」
「……それが無理なのは分かっているのでしょう? 私たちが手を取り合うには、きっと何もかもが遅すぎた」
既に時の歯車の在処は殆ど判明している。時空の叫びを持つ私が処刑されたとしても、使命に大きな影響はない。捕まってしまった私に出来ることはせめてジュプトルがより遠くへと逃げる為の時間を稼ぐこと。
いずれ消える命だとしても、生きることを諦めたわけではないし少しでも隙を見つけられたら自分も逃げ出す努力はするけれど。
——たった一度でいい。ヨノワールが私たちの手を取ってくれていたら、それだけでこの未来はもっと良い方向に変われたのだろう。