——初めて彼と会ったときはその辺の有象無象の使用人と変わらないと思っていたし、どうせすぐに飽きて私の視界から消え失せるのだろうと思っていた。当時の私はどれだけ冷たく突き放そうとも変わらぬ忠誠を向けてくる目の前のこの男のことを理解していなかったし、理解しようともしなかったのだ。正直、今でも半分も理解できている気はしないのだが。
「マゼンタ様」
名前を呼ぶ声で思考の淵からマゼンタの意識は引き戻された。
彼……ジルベルトと出会ったのはもう随分と昔のことのように思う。実際、これまで仕えていた使用人はその殆どが何らかの理由——大半はマゼンタ自身によるものだが——によって城を去ってしまっているので付き合いの長い執事ではあるのだけれど。
「何か良いことでも?」
「そう見えるか? ……大したことじゃない、ただお前は出会った頃から何も変わらないなと、そんなことを思っていただけだ」
裏切りと絶望に塗れ、自身の弱さを嘆いていた幼い頃の記憶。ろくでもない人生の中で彼が自分に仕える執事としてやってきたことだけはある種の救いだったのかもしれない、などと思うこともあるが決して言葉にはしてやらない。
尤も、ジルベルトの性格を考えれば伝えずとも自分に都合の良いようにポジティブな解釈をしていてもおかしくはない。
そういう性格だったからこそ今もまだ自分に仕えていられるのかもしれないが——とマゼンタは息を吐いた。
「……それより、私は少し出かけてくる。お前は好きにしてくれて構わない」
着いてくるのならばそれでもいいし、他に用事があればそちらをしてくれてもいい。王族とはいえ、執事がいなければ何も出来ない赤子でもない。
そう告げて彼の返事も待たずに歩き出す。返事なんて、聞かずとも彼がどのような行動を取るのかは何となく分かる。昔の自分であればジルベルトの行動が本当に理解できなかったかもしれないが、今となっては自分の日常の一部になってしまっているのだ。
*琴音様宅ジルベルトさんお借りしました!