宝石と香草

「こんな方がお兄様だなんて……」

目の前の少女——暫く会っていなかったがその顔も声も間違いなく実の妹のものだ——は動揺したような声を漏らす。
記憶喪失。何があったのか定かではないが生まれてから今までの記憶を失っていたらしい。今でも思い出したわけではなく、「マートル」という新しい名前で過ごしていたようだ。
昔の……彼女が記憶を失う前に名乗っていた名を呼んでも、自分の顔を見ても無反応だったのはそういうことかと一人で納得する。

「感動の再会、なんてガラじゃねぇが……記憶喪失、か。そんなことが実際にあり得るのか?」
「そ、そんなこと言われても実際にあなたのことなんて記憶にありませんし……」

彼女が嘘を吐いているようには見えないし、そもそもそんなくだらない嘘を吐く理由がない。
やはり記憶喪失は事実のようだ。妹が記憶を失ったからと言って悲観的になるような性格ではないけれど。

「期待した兄のイメージとは違うだろうが、たとえ簡単に受け入れられなくてもお前に俺と同じ血が流れている事実は変わらない」

自分が世間一般の兄のイメージには当てはまらないことは理解している。
それでも。

「まあ、実の妹が無事だったことと、こうしてまた会えたことはよかったと思うがな」

少なくとも、これは本心だった。


*おぼろ様宅マートルちゃんお借りしました!