「あ、ディアンサス! いたいた!」
パタパタと駆けてくるアインの姿を確認し、ディアンサスは首を傾げた。
この世界から死季の脅威がなくなって暫く。かつて共に戦った仲間たちはそれぞれ元の生活に戻っていた。とはいえ決してつながりが消えたわけではなく、今でも顔を合わせることはあるし手紙のやり取りもしている。
だが、あの頃ほど一緒に過ごす機会は少ない。本来ディアンサスに——アベル人類が「魔族」と呼び恐れている存在に、そのような感情は備わっていない筈なのだが、ほんの少しだけ違和感のようなノイズを感じることがあった。
それにしても、約束をしていたわけでもないのにアインのほうから会いに来るのも珍しい。何か悩みや相談でもあるのだろうか、と思案しているディアンサスに「はい!」と小さな封筒が差し出された。
「……これは?」
「ディアンサスにプレゼント。ディアンサスには特に必要ないものだと思うけど、それでももし良かったら貰ってほしい」
「私に? ……理由を聞いてもいいだろうか」
自分はプレゼントを貰うようなことは特にしていない、と。恐らく人間であれば困惑の色を浮かべているであろう反応を見てアインは苦笑する。
「いつもお世話になっているし、感謝の気持ちを形にしようと思って。他のみんなには差し入れにご飯を作って持って行ったんだけどディアンサスにご飯を持っていくわけにもいかないから」
「成る程。しかし私のことは気にせずとも——」
「自分が好きでやってるだけだよ」
誰かひとりだけ扱いを変えるなんてしたくないし、と笑うアインにディアンサスは彼らしい発想だと納得した。
アインから渡された「プレゼント」の封を切り、中身を確認する。手紙でも入っているのかと思ったが、入っていたのは平面状に乾燥させた花を台紙に貼り付けたものだった。
ディアンサスはライブラリを参照する。これは確か押し花と呼ばれるものだっただろうか。カインがかつて作っていて、このように栞にすることもあったのだとか。
「アリアから作り方を教わったんだ。ネメアの桜の花びらを集めて……」
「……お前がこのようなものを選ぶとは、少々意外だった」
「嫌だった?」
「いや……悪くないと思う」
本を読むなどという習慣は当然ながらディアンサスにはないけれど、それを分かった上で綺麗な栞をプレゼントに選ぶアインの行動も含めて悪くない、と。
感謝すると告げればアインは柔らかい笑みを浮かべる。人の感情の機微なんて分からないがその表情をまるで春のあたたかな日向のようだと感じた気がした。