「ハイネは、もしも自分が急にいなくなったらやっぱり悲しんでくれるのかな」
——なんて、答えを聞くまでもない疑問。
かつて姉のような存在でもあった女性を失い、その時の後悔や未練を抱えて生きてきたハイネが漸く出会った人生のパートナーを失ったとしたらその悲しみと絶望は計り知れないものだろう。
その別れが人間の寿命によるものであればきっとお互いに覚悟は出来ているし別れを乗り越えて前を向いていられると思う。
だけどもしも不慮の事故や大病、或いはある日突然失踪するようなことがあったとしたら。恐らくは一生その傷が癒えるようなことはないのだろう。分かりきっている。自分をパートナーに選んだ人はそれだけ優しい人で、パートナーのことを本当に大切に思っていてくれる。
「アイン、冗談でもそんなことを言わないでくれ。……私にとって、君は本当にかけがえのない存在なんだ」
「分かってるよ……ごめんね」
私という存在はアベル人類という器にカイン人類の精神を移した特異な存在らしい。それを知ったのは全ての戦いが終わったあとのことだったし、正直今でも実感は持てない。
だからこそ、自分が何なのか時折わからなくなる。アベルとして生まれ育ったというにもカインとして生きてきたというにも曖昧な存在である私は、もしかしたら次の朝には目を覚さなくなっているかもしれない。
そんな不安が常に付き纏っている。意図的に精神を別の入れ物に移して体や心に何の影響もないなんて言い切れない。
「……ハイネを一人残していなくなったりしないよ。まだまだハイネと一緒に行ってみたい場所もたくさんあるし」
海の向こうには別の大陸があるというし——シーズライトが存在しないであろう場所がどのような環境なのかさっぱり分からないけれど、まだ二人で行けてない場所は山ほどある。そのような場所を見て回る前に彼と永遠の別離を、なんて考えたくはない。
何十年か経ったあと、幸せだったと隣で笑い合えるそんな日を夢見ている。