幸福の箱庭

「ディアンサス、最近楽しそうだね」
「……楽しそう? 私がか?」

 朝食のサンドイッチを食べていた自分の言葉にディアンサスは首を傾げた。
 ディアンサスとパートナーになってひと月。朝食の時間は共に過ごす、というのが自分たちの間でルールのようなものになっていた。お互いにそんな取り決めをしたわけでもなく、自然とそうなったというほうが正しい。
 一緒に暮らし始めてから最初の数日は自分が朝食をとっている間ディアンサスは別のことをしていた。ディアンサスには食事が必要ないからわざわざ朝食に付き合ってもらうのも悪いかと思い声をかけなかったのもあるが——それが暫くするとディアンサスは興味深そうに此方の食事風景を観察するようになっていた。
 一度、退屈ではないかと尋ねたことがあったが「人類にとって食事が必要不可欠であることは我々も承知している。それに、お前が器用に朝の支度をする姿はなかなか興味深い」などと言われてしまった。
 以来、特に理由もなく一緒に過ごしている。自分としてはパートナーと過ごす時間が一秒でも増えるのは嬉しくもあるけれど。

「……ふむ、考えたこともなかったが確かに最近はお前と過ごすこの時間を心待ちにしているように思う」
「ディアンサスにそう言ってもらえるのは嬉しいな。自分だけがこの時間を楽しんでたら悪いなと思ってたし」
「そういうものか」
「そういうものだよ」

 最後の一口を放り込み、野菜ジュースで流し込む。
 今日の朝食の時間が終わってしまったことに少しだけ寂しさを感じながらも立ち上がるとふと思い出したようにディアンサスが言葉を発した。

「アイン、今日の夕食は考えているのか?」
「いや、まだ考えてないけど。それがどうかした?」
「お前が嫌でなければ夕食にも同席させてもらっても構わないだろうか、と思ってな」

 朝食ならともかく夕食に……というのは珍しい。
 というのも自分の生活がお世辞にも規則正しいとは言えず、食事の時間がバラバラなのが原因だ。朝食であれば起きてすぐに用意するのだが、夕方は大抵出かけていてなかなか帰宅できないことも多い。
 疲れ果ててシャトラの酒場などで夕食を済ませてしまうことも割とよくある。

「構わないよ、自分としてもディアンサスと一緒のほうが楽しいし。あ、でも、帰りがいつになるか分からないから待たせてしまう可能性もあるかも」

 出来るだけ早く帰れるように努力するけど、と付け加えると気にする必要はないとディアンサスはかぶりを振る。

「確かお前は今日はアルジェーンへ向かう予定だと言っていたな。遠見の丘からの移動時間やお前の行動を推測し、想定外の事態も考慮した上でおおよその帰宅時間を割り出すことが可能だ」
「そんなこと出来るんだ」

 ディアンサスや他の魔族たちに様々な機能が備わっていることは知っていたけれど、改めてすごい。
 機能もだがそれ以上にその機能を自分の為に使おうとするディアンサスに驚いた。だってそもそも彼らの機能は一個人の人間の為に使われる想定で作られたものではない筈だ。
 ……それをたった一人の為にさも当然のように使うというディアンサスに嬉しい、と思ってしまった。

「でもやっぱり待たせちゃうと悪いから、今日は出来るだけ早く帰るね?」
「……承知した」

 ディアンサスが帰りを待っていてくれると思うだけで胸が弾む。ああ自分にとってのディアンサスは本当に大切で特別なひとなのだなと実感して、顔を綻ばせた。