あなたと囲む穏やかな食卓

「最近太ってきた気がする……」

 そう呟いたアリアはもう何度目か分からない溜息をついた。

「そんなに気にするほど変化があるようには見えないけど」
「私が気にするのよ。……こっちには体重計なんてないし、油断したわ」

 アリアくらいの年齢だとまだまだ育ち盛りだし食べるだけ食べて動かないのは問題だけど自分たちは普通の人よりも体を動かしているほうだしやはり気にするほどではないのでは、という言葉をアインはギリギリで飲み込んだ。
 前にディアンサスも自分と似たようなことを言っていた気もするが、それでもアリアにとっては重大な問題なのだろう。
 服の上から自分の腹部を触りながらアリアは再び深く息を吐く。溜息をつくと幸せが逃げる、などと言われるらしいが確かにこのどんよりとした空気は幸せとは程遠いかもしれない。

「これも、アインと正式にパートナーになったせいかしらね」
「……理由を聞いても?」
「理由も何も、だってアインの作る料理ってどれも美味しいじゃない。つい食べすぎちゃうのよね」

 元々一緒に暮らしていた時は食事は別々にとっていたから平気だったけど、とアリアは付け加える。
 確かに正式にパートナーとなってからは二人で食卓を囲む機会が増えた。アリアが喜んで食べてくれるからとつい作りすぎてしまい、残すのももったいないし罰当たりだから……と二人で綺麗に完食したことも、あったような。
 何ならデザートにとアイスクリームやケーキを用意したこともあるような気がする。我ながらアリアのことをかなり甘やかしているような気がしてきたが、料理を作るのが好きだったし自分の作る料理で幸せそうなアリアの顔を見られるのは一石二鳥なので仕方ない。

「自分はアリアが喜んでくれて嬉しい」
「そりゃどうも。……とはいえそのせいでこれ以上太るのは困るのよね。服も入らなくなっちゃうし、健康にも悪いし、何より私がもう少し痩せていたいし」
「服が着られなくなるのは確かに困るかも」

 自分が把握している限り、レーテの村やネメアの街に服屋はなかったし自力で作るというのも流石に難しい。行ったことのない集落にでも行けば手に入るのかもしれないが、残念ながらアインもアリアもこの世界の地理には疎い。
 発明家のハイネに頼めばあるいは——とも思ったが彼のことだから油断していると服に余計な機能を付けてしまいそうだ。

「これからおやつにフォンダンショコラでも、と思っていたけどアリアが体重を気にしているならやめておいたほうがいい?」
「…………ダイエットを決意したばかりの人間にそんなこと言い出すのはどうかと思うけど」
「ごめん。でも自分が作りたかったし、アリアも好きかなと思って」
「う……。そう言われると流石に断りにくいじゃない……」

 アリアは暫く考え込んで——今日だけとくべつだから、と漸く口にする。

「ダイエットは明日からよ。……せっかくのアインの気持ちを断るのも悪いし」
「アリアはパートナーのことを甘やかすのが上手だね」
「それはお互い様よ」

 食材を並べながら、フォンダンショコラを幸せそうに口に運ぶアリアの姿を想像して思わず破顔した。
 このままではこれ以上太らないように、と気にしている彼女のことをまた甘やかしてしまいそうだ。それはそれで幸せな日常ではあるのだけれど。