——酒は飲むとも飲まるるな、とはよく言ったものだ。
ハイネ。ハイネ。そう名前を呼んで彼の腰に手を回す。呼ばれたハイネは困ったような顔をしつつも笑っていたように見えた。
◇
「ハイネ、すまないな。一応、アインには慣れていないなら飲まないほうがいいと伝えたんだが……」
「いや、呼んでくれて助かったよ。まさか彼女がここまで酔い潰れているとは思わなかったけれど」
シャトラのアトリエでの作業を終え、そろそろ帰ろうか——というときに酒場の従業員を名乗る女性が自分を呼びに来たときは何事かと思ったけど、とハイネは苦笑する。
自分は酒場で何かやらかしてしまっただろうか。しかしアインと共に暮らし始めてからは酒場に立ち寄る機会は減っていたし、行くことがあってもエモの歌声を堪能したいときか、軽く食事をしたいときくらいだ。
一人暮らしをしていた頃であれば記憶がなくなるほど飲んで奇行に走った……という可能性もなくはないが、もう半年以上はそのような飲み方はしていない。心当たりは何もないが、と思案していたが酒場の従業員から「アインが酔ってしまって一人では帰れそうにないから迎えに来てほしい」と告げられて驚いたものだ。
意識がはっきりしていないのか舌足らずな喋り方でずっとハイネの名を呼んでいるものだからハイネを呼ぶしかなかったのだという。
「うちの常連客が酔ってアインにも酒を勧めてな」
「彼女は普段殆ど飲まないからね。一緒に暮らしている私でさえアインが飲酒しているところなんて滅多に見ないくらいだ」
相変わらず酔ってふにゃふにゃと笑っているアインへと視線を投げ、ハイネは苦笑する。酔いが覚めたとき、記憶が残っていれば自分の醜態に赤くなったり青くなったりするアインの姿は想像に難くない。
彼女が自宅で飲酒をすることは——全くない、とまでは言わないが何か特別な日に嗜む程度だった。お人好しなアインはきっと酒を勧められて断るのも悪いから、と軽く付き合うつもりで飲んだのだろう。
グラスに中途半端に残っている、アインが飲んでいたらしい酒をチラリと見る。中身はジュースのようで比較的飲みやすい酒だった。
「アイン。ほら、水を」
「んー?」
抱きつかれたり体をペタペタと触られたり、このままではアインを連れて帰るのは難しい。最悪、どうにかディアンサスと連絡を取って飛空艇で迎えに来てもらうことになりかねない。
取り敢えず水でも飲ませてから考えよう、とマスターに用意してもらった水をアインの口に運んで飲ませる。意外と大人しく水を飲んでくれたことにひとまず安堵した。
「はいね、すき」
酔って意識がはっきりしていないアインが拙い言葉でそう告げて子供のように無邪気に笑う。本人にとっては後から思い出したときに死ぬほど恥ずかしい気持ちになる可能性はあるけれど、これはこれで悪くない。
「……私も、アインのことは好きだよ」
なんて、今の彼女に伝えても覚えていないかもしれないなと思いながらも貰った愛情を言葉にして返した。
うれしい、とハイネに頬を寄せたアインはそのまますやすやと寝息を立て始めた。……もうしばらく帰れそうにないなとハイネは苦笑する。これは諦めてディアンサスに助けを求めたほうがいいのかもしれない。
翌朝、自宅で目を覚ましたアインが自身の痴態を思い出しわなわなと震えていたのは言うまでもない。