——アリアの時代にはバレンタイン、と呼ばれる行事があったらしい。
様々な文化がありバレンタインの内容も場所によっては全然違うのだとか。男性から意中の女性へ花束を贈ることもあれば恋人たちの日としてカップルや夫婦が二人きりで過ごすこともある。場所によっては恋人だけでなく家族や友達へ感謝を伝える日でもある、なんて話を以前アリアがしていた。
「……で、どうしてフォンダンショコラなんだい」
「アリアが言うには女性から男性へチョコレートを贈る、というパターンもあったらしいから」
と言っても女性が意中の男性へとチョコレートを贈るという形のバレンタインはアリアにとっても古い時代のもので友達同士でチョコレートを交換することもあれば同性の想い人へ——ということも珍しいことではなくなっていったらしいけれど。
他にも義理チョコであったり、いつも頑張る自分へのご褒美であったり、当時は本当に色々な形でチョコレートが売り出されていたという。
アリアからそのような話を聞いて自分でもパートナーであるハイネの為に何かをしたい、と思い立ったのがつい先日のことだ。最初は花を贈ることも考えたが自分の育てている作物ならともかくそれ以外の植物には疎いしハイネが好む花もよく知らない。
料理なら得意だしパートナーになってからは極力一緒に食事をするようにしているから味の好みもある程度は把握している。そう思いフォンダンショコラを作った。特に深い意味があるわけではない。
「——君に大切に思われている、というのは幸せだね。もちろん普段から君は私のことをよく思ってくれていると知っているけれど……」
こうして何らかの形にして、言葉で直接伝えるというのは珍しいことだ。
唐突に作りたてのフォンダンショコラを手渡されたときは何事かと思ったけれど、とハイネは苦笑する。
アリアが生まれた時代の文化や風習は恐らくその大半がリ・ガイアには残っていない。レーベンエルベたちが意図的にそれらの文化を継承しなかったのか、ロストガイアの末期にはそんな余裕すらも残されていなかったのか、それは定かではないけれど。
当然バレンタインもリ・ガイアにはない文化のひとつで——ディアンサスであればもしかしたら存在くらいは知っていたのかもしれないがハイネにとってもアインにとっても馴染みはないものだ。
「いつも君に貰ってばかり、というのは悪いと思っているのだけど」
「もう十分ハイネからいろんなものを貰っているよ」
人生のパートナーになってほしい、と告げたのも自分からだったしその気持ちに応えてくれただけでも十分すぎるほど色々なものを貰ってしまったとアインは笑う。
——それこそお互い様だ。パートナーになるよりもずっと前からアインは様々なものをくれた。目に見えるものだけではなく、形のないものも含めて。レーテの村でアインと出会うことがなければ、或いはシャトラで彼女と再会しなければ、今の自分はいなかっただろうとさえハイネは思っている。
「本当に、君には敵わないな」
「…………ハイネも十分ずるいと思うけどなぁ」
この人のとなりでずっと生きていきたい、なんて。そう思ってしまった時点で心は囚われている。