二人で過ごす日は海色

 アインの朝はいつも畑仕事から始まる。
 目が覚めて真っ先に確認するのは天気だ。雨が降らない日が続くのは作物にとってあまり良くないし、かといって雨が降りすぎても作物は弱ってしまう。
 記憶喪失で帰る場所など分からないアインは与えられたこの遠見の丘の立派な畑を無駄にしないようにと——簡単なことは医者のクレスから教わっていたけれど、作物の育て方について必死に勉強した。
 案外記憶を失う前に畑仕事をしていたことがあって魂が覚えていたのか幸いすぐに基本的なことは覚えたので生活に困るようなことは殆どなかった。……尤もアインは元からリ・ガイアの記憶を持っていなかったのでそのような過去があったとしても正確にはロストガイアで生きていた頃の経験ではあるのだろうけれど。

「今日の仕事はもう終わったのかい」
「畑仕事はね。もうすぐランタンカボチャの収穫だから次に育てる作物の種を買いに行くところ」

 人生のパートナーとしてアインと共に暮らしているハイネは「いつも大変そうだね」なんて苦笑する。
 アインはいつだって誰かの為に動き回っている。ハイネもそんなアインのお人好しに救われた人間の一人で、だからこそこの人とずっと助け合って生きていきたいと思ったのは否定できない。
 農作業は数少ない、アインが自分の為にやっていることである。とはいえ収穫した作物を困っている人にあっさりとあげてしまったり育てた作物で作った料理を仲間に振る舞っていることも多く、巡り巡って誰かの為ではあるのだが。

「そういうハイネも、これから仕事でしょう?」
「ああ、今日中に完成させておきたい設計図があってね。夕方までには帰れると思うのだけど」

 発明には専用の部品などを使うこともあるし流石にそれらを全て遠見の丘まで運び込むのは難しいからとパートナーになってからもハイネは仕事道具の大半を前に生活の拠点としていたアトリエに置きっぱなしにしていた。
 遠見の丘からシャトラまでは距離があるし翡翠の森を越えなければならないから大変ではないかと思うのだがハイネ本人は「大したことないよ」と涼しげな顔である。

「パートナーである以上、きちんと君の家を生活の拠点にしたいのさ。ああいや、今はもう君と私の二人で暮らす家なのだけどね」
「そういう風に言ってもらえると嬉しい。自分がシャトラで生活してもいいとは思うんだけど……」
「君は畑仕事や動物たちの世話があるからこの場所をあまり離れられないだろう?」

 急な天候の変化で作物に悪影響が、なんてこともないとは言い切れない。遠見の丘からであれば他の街へも通いやすく(アルジェーンは少し距離があるのだが)意外と便利だ。

「それに、この場所は他の街より季節の変化がはっきりしているからね。その変化が面白い、というのもある。尤もシャトラの潮風や肌を刺すような陽射しも嫌いではないのだけど」
「シャトラでは雪が積もったり綺麗な紅葉が見られたり桜が開花したりってこと殆どなさそうだね」

 夏のシーズライトから程近い場所にあるシャトラは遠見の丘に雪が降り積もり一面の銀世界が広がるような時期でも比較的暖かかったと記憶している。
 シャトラに限らず一年を通して気候が大きく変動することがない、というのは四季のある生活が当たり前なアインにとってあまり想像できないものだ。

「シャトラに生活の拠点を置くというのは厳しいかもしれないけれど君の仕事の負担が軽くなる時期に二人でシャトラへ遊びに行くのは楽しそうだね」
「そういえば一緒に暮らしてはいるけど二人でどこかへ出かけるってことはなかったね」

 ——他の仲間も誘って天の卵や珊瑚の神殿へと必要な素材を集めに行くことはあるけれど。
 いつか人生を共に生きると誓ったこの人と二人でどこかへ遊びに行ったり、いっそ遠くへ旅に出るのも素敵だな、なんて思ったりした。