一番星

 女性の扱いなんて手慣れたものだろう、と思われていることもあるけれど自分では慣れていると思ったことなどない、とハイネは思っている。
 かつてフィアソラに言われた言葉を真に受けて本気で恋人を作ろうと道ゆく女性に声をかけるようになったが今まで一度だってしたことがないナンパの成果は散々なものだった。

「ハイネは自分たちがはじめて会ったときのこと、覚えてる?」

 人生のパートナーでもあるアインの言葉にハイネは首を傾げた。
 レーテの村で発明品に使えそうなものを物色していたハイネが後ろにいたアインに声をかけた——そんなありきたりな出会いだ。決して印象に残るような運命的な出会いをしたわけではない。人との出会いなんて、いつだってそんなものだと思うけれど。
 あれはもう一年以上も前の話になる。あの時はまさかあのタイミングで言葉を交わした女性と世界を救う為の戦いに身を投じることになるとも、平和になった世界で彼女と共に生きることを誓うようになるとも思っていなかった。

「いきなり美しい女性扱いされてびっくりしたの、今でもよく覚えてる」
「……あの時の話はやめてくれ」

 流石に君の口からあの時の話をされるのは少し恥ずかしい、と抗議するハイネにアインはふにゃりと笑う。
 ハイネがアインのことを口説いたのは長い付き合いの中であの時のたった一度だけだ。仲間としての信頼や愛情が強く、彼女のことをそのような目で見ることがなかったというのが大きな理由ではあるけれど。
 生来の真面目な気質を隠しきれてない——ハイネ本人は隠すつもりなどないのかもしれない——彼の言動をアインは好ましく思っている。
 もしもハイネが第一印象の通りの軽薄で女性好きなだけの男性であったなら自分たちは仲間としての立場を越えて人生を共に歩むパートナーになることを選んだだろうか。今となっては「軽薄なハイネ」の姿を想像することも出来ないけれど。

「正直な話、当時はちょっとだけ嫌な人だなと思ったりもしたんだけど」
「……容赦ないね」
「でも今はパートナーとしてずっと一緒に生きていけたら幸せだなあって思ってる」

 農作業に勤しんでいるアインの姿をハイネが玄関からそっと見守っていたり、シャトラのアトリエでなくても出来るような発明や研究をしているハイネのことを少し手伝ったり。そういう日々を繰り返して生きていけたら幸せだろうと思う。何十年か先、この人とパートナーになって良かったと笑い合えることを望んでいる。
 初対面のときはハイネに対してこのような感情を抱くことになるとは思っていなかったのだが。

「——アイン。私はね、初対面のときに君に嘘を言ったつもりはないけれどパートナーとなった今はあの頃以上に君のことを美しいと感じているんだよ」

 ハイネに面と向かって言われ、アインは思わず視線を逸らす。こういうときにどんな顔をすればいいのか分からない。

「……ハイネには敵わないなぁ」
「それはお互い様さ」

 一緒に生活を始めてから幾度となく思ったことではあるけれど、きっと彼から向けられるまっすぐな好意に慣れて心が動かなくなるようなことはないのだろうなとアインは微笑した。