そして共に繋いでゆく

 今日の夕方まではアインが一人で生活していたという遠見の丘の家へと足を踏み入れる。アインがここで暮らしていることは知っていたし手紙は何度か出したことがあるけれど、ハイネがここへやってきたのはこれが初めてのことだった。
 ——人生のパートナーになってほしい。アインのそんな愛の告白にも似た言葉を受け入れてパートナーとして生きていくと決めた。
 シャトラにあるハイネのアトリエはあまり広くはなく発明品や発明に使う道具が散らかっていて自分はともかく誰かと生活するのは向いていないしアインが毎日畑や家畜の世話をする為に遠見の丘へ通うのは大変だろう。それなら自分が彼女の生活に合わせるべきだとアインの家で生活することになった。
 今日からここで自分も生活することになると分かっているのだが見慣れない景色にどうにも落ち着かない気持ちになる。
 一人で暮らすには広い家はそれでも綺麗に片付けられていて、埃などもない。調理台の上にはいくつか食材が置きっぱなしになっていて、恐らくはハイネに会いに行くギリギリの時間まで料理でもしていたのだろう。
 世界から死季がなくなって以降、あの頃のような大冒険は殆どなくなってしまって時間を持て余すようになってしまったからその分料理をする時間が増えた、と前に話していたような記憶がある。

「元々アリアと二人で暮らしてたんだけどね。アリアが出て行ってしまってから一人で暮らすには広すぎてちょっと寂しい感じになってたんだ」

 アリアが使っていた寝具はきちんと替えておいたからハイネはそっちを使って、なんてアインは淡々と説明する。仲間とはいえ流石に誰かが使っていた寝具をそのままパートナーとなった人に使わせるわけにはいかないでしょう、と。

「ところでハイネ、まだご飯食べてないんじゃない?」
「ああ、うん、君から大事な話があるって聞いて待っていたからね」

 普段から発明や研究に夢中になって食事を忘れることはあるけれど、とハイネは苦笑する。
 食べることを忘れていなければいつもは酒場で済ませるかアトリエに備え付けられている調理台で適当に何か簡単なものを作って食べているのだが今日はアインが来ることになっていたから彼女を待たせることになるのは悪いかと思い後回しにしていた。
 アインから手紙が来るなんて珍しい、悩み事や困っていることでもあるのだろうか。これまで何度も助けてもらっているのだからアインが何か困っているなら出来るだけ力になりたい——なんて考えていたけれど彼女の用事がまさか「人生のパートナー」に関するものだとは思っていなかった。

「私もまだ食べてないし、何か食べたいものあれば用意するけど」
「おや、君が作ってくれるのかい?」
「ハイネが私の料理が嫌じゃなければ、だけど。パートナーになったんだしせっかくこれから一緒に暮らしていくのに食事は別々のタイミングで、なんて寂しいし」
「嫌なんてことはないよ。君の料理はどれも美味しいからね。ただ、パートナーになったというのなら私も君にばかり甘えていられないなと思っただけさ」

 冒険の合間にアインが持ってくる料理はそのどれもが絶品で、店で出しても通用するのではないかと思うようなものも多い。前にアインが「シャトラの料理にチャレンジしてみた」と作ってきたトムヤムクンは仲間たちにも特に評判が良かった。
 だがパートナーである以上、彼女に任せきりというわけにもいかない。まだこの家のどこに何が置かれているのかさっぱり把握できてはいないがゆくゆくはアインの代わりにハイネが料理や掃除、洗濯などをする機会も増えることだろう。もちろん二人で一緒に家事をすることもある筈だ。

「……つまり?」
「アインと二人での生活に早く慣れておきたいのさ」

 食材が置きっぱなしになっている調理台のほうへとハイネは視線を投げる。要するに、初日だからといってアイン一人に食事の支度を押し付けたくはない、ということだ。
 ——アインと二人で何かをする、というのはフィアソラ号を改良し深海の旅をしたあの時以来だがこれから先はそんな機会がもっと増えていくのだろう。それはとても楽しみだ。