「死季かぁ……自分は普段通りの生活してたな……枯れてしまった作物をどうにかしないといけないし」
アインが漏らした独り言に、隣で新しい発明品を作っている最中だったハイネはフリーズした。
死季。季節の変わり目に訪れる死の季節。その日は世界から色が失われ、光の塵が舞う。作物は枯れ果て光の塵を吸い込んだ人間の命を蝕む。死季の病と呼ばれている病の治療法は確立されていない。それがこの世界の常識だった。
誰もが一歩も外に出ず、家中の窓や扉を固く閉ざして次の季節がやってくるまで堪える日。それはハイネとて例外ではなく、死季の日はずっとシャトラにあるアトリエで過ごしていた。
世界を救う為の戦いでこの世界から死季がなくなり怯えながら生きる必要がなくなった今となってはあの頃のことが遠い昔のように思えるけれど。
「……アイン。まさかとは思うが君はもしかして死季の日に出歩いていたのかい?」
「あー……うん、まあ……平気だったっぽいし」
アインの反応にハイネは深く息を吐く。
彼女が元々死季の日に行き倒れていたところを保護されたというのは知っている。本来なら死んでいてもおかしくはなかったが奇跡的に体への異常はなかったらしい。
行き倒れていたときは偶然何事もなかっただけで次は死んでしまっていたかもしれないというのに。万が一のことがあったら——そんなことを想像して、ハイネは自分の心臓が冷たくなったように感じた。
アインとパートナーになってから……否、パートナーになるよりもずっと前から、彼女が平気で無茶をするタイプであることは理解していたつもりだが、死季に平然と出歩くのは流石に予想の範疇を超えている。当の本人はあっけらかんとしているので尚更だ。
「いいかい、アイン。死季に出歩いてはいけないことは子供でも知っていることだ。君が無事だったからよかったものの……。まあ、今更言っても意味のないことではあるのだけど」
「ハイネ、心配してくれるんだ」
「当たり前だろう。君とパートナー関係ではなかったとしても同じように心配すると思う」
死季に出歩いたアインの屍が翌朝遠見の丘で発見されるとか、死季の病を発症してどんどん衰弱して自力で立ち上がることすら出来なくなった彼女を看取ることになるとか、そんな展開にならなかったことだけが救いだ。
「ハイネを悲しませたくないし、これからは極力危険なことはしないよ」
——なんて言っているアインが数日後アルジェーンでトラブルに巻き込まれて命の危機に陥ったのはまた別の話である。