あの日の続き

 ——大事な話があるから都合のいい日に会ってほしい。
 遠見の丘からシャトラの片隅にあるハイネのアトリエに届けられた手紙には簡潔にそう書き記されていた。手紙を運んできたのは送り主であるアイン……が時折連れていた火の妖精だ。
 恐らく彼女から用件を聞かされているであろう妖精はそわそわと落ち着きがなく、アインの用事を全て話してしまいそうな勢いだったのでハイネは慌てて妖精を送り返した。
 大事な話というからにはアインから直接聞いたほうがいい、という判断である。
 そも、アインから手紙が来るなど相当珍しいことだ。基本的にはハイネのほうから手紙を出し、アインがそれに応じる。それで困ったことはない。
 そんな彼女からの大事な話。何か大きな悩みでも抱えているのだとしたら出来る限り助けになりたいと、そう思っていたのだが。

「人生のパートナーになってほしい」

 アインのまっすぐな言葉にハイネの思考は完全に停止してしまった。
 人生のパートナー。言葉の意味は分かる。彼女からの告白にも等しい言葉。実際にそこに含まれている感情が恋であったのかは定かではないが少なくとも相手に対する特別な親しみと愛情がなければ決して紡がれることのない言葉だ。
 まさか自分がそのような言葉を、想いを受け取る側になる日が来るとは思っていなかったハイネにとってその出来事は今まで生きてきた中でもそれなりに衝撃的な印象を残していた。



「君とパートナーになれるのならきっと幸せだろうと、あの時の私はそう思ったのさ」

 作業の手を止め懐かしむようにそんな話をするハイネに、アインは少し驚いたような顔をする。
 なんてことのない思い出話。どうしてハイネを人生のパートナーに選んだのかと聞かれても具体的な理由があったわけではない。ただこの人の隣は居心地が良くて、ずっと一緒に生きていけたらきっと楽しいだろうとぼんやり思っただけだ。
 今でもその選択は間違っていなかったと思う。農業をしながら時折ハイネが作っている新しい発明品を眺めて、彼が困っているようなら手助けをする。たまに発明に夢中で時間を忘れ、シャトラのアトリエから帰ってこないこともあるハイネを迎えに行くのもちょっと楽しいと思っているくらいだ。
 だが、ハイネがあの時のことを思い出話として語るのは——アインにとっては珍しいと感じることだった。彼との普段の会話であの日の「大事な話」に関する話題が出ることなど殆どない。

「ハイネがそんな話をするなんて珍しい」
「私からすれば君の口から人生のパートナーになってほしい、なんて言葉が出るほうが驚きだったけどね。それも相手が私なのだから、尚更だ」
「別の人と一緒に生きていく、なんて選択肢思いつかなかったから」
「そう言ってもらえるのはありがたいけどね」

 そう言って、ハイネは再び作業に戻る。
 彼が次に作る発明品はどんなものなのだろうか。きっと夢が詰まった素敵なものを作っているのだろう。それが少しずつ形になるところを隣で眺めながら過ごすことは、この上なく幸せだった。