遠見の丘に雪が降っていた。
それぞれのシーズライトから程よい距離にある遠見の丘には四季があり、冬土の節になれば雪が降ることも決して珍しいことではない。これが夏のシーズライトに近いシャトラであれば雪なんて滅多にない現象だろうし、逆に冬のシーズライトの影響を受けたアルジェーンでは夏水の節でも雪が積もった光景など当たり前なのだろうけれど。
「おかえり、アイン。今日は一段と寒かっただろう?」
「ただいま、ハイネ。確かに寒かったけどこの仕事に休みはないからね。もう慣れてしまったし……それを言うならシャトラ暮らしが長かったハイネのほうが遠見の丘の冬は厳しいんじゃない?」
シャトラはこの時期でも比較的暖かく、涼しげな格好をした住民が多かったと記憶している。
自宅には大きな暖炉があって寒い季節でも快適に過ごせるとはいえ、家から一歩出るとこの辺りはシャトラとは比べものにならないほど空気が冷たい。肌を刺すような寒さに出かけるのも億劫になってしまう。
「ハイネには自分の生活に合わせてもらって助かってるけど同時に苦労も多いんじゃないかなって心配になることがあるんだ」
ハイネと人生のパートナーになったとき、自然と二人の拠点は遠見の丘になった。
シャトラのアトリエはハイネの発明品や発明に使う道具が多く二人で生活するにはちょっぴり手狭ではあったし、何よりアインには畑や動物たちのこともあるから毎日シャトラから遠見の丘まで通うのは大変だろう。かといってシャトラに新しく畑や動物たちの小屋を作るのも難しい。農業を辞めて他の職を選ぶという選択肢も存在しない。
発明家の仕事は道具さえあればどこでも可能だし、仕事のときだけシャトラに通うのもアインと比べれば負担は少ないから、とハイネは当然のように遠見の丘を寝食の場に選んだ。
「私が君と一緒にいたくて選んだことだ。苦労がない、とは言わないけれど後悔はしたことないし君が心配するようなことでもないよ。もちろん、気遣ってもらえるのは嬉しいけれどね」
「そういうところ、ハイネらしいな」
——ハイネを人生のパートナーに選んだことは決して間違いではなかったのだと自信を持って言える。
「ちょっと待ってね、温かいスープでも用意するから」
「君は帰ってきたばかりだろう? 少しくらいゆっくりしてもバチは当たらないと思うのだけど」
「ハイネって自分が作った料理をおいしそうに食べてくれるでしょ? だから見てて元気になるし、嬉しくてもっと作りたくなるんだよ」
パタパタと慌ただしく駆けていくアインの背中を目で追いながら、ハイネは小さく息を吐く。偶にはもう少し頼ってくれてもいいのに、なんて思うけれどアインにそのように言われてしまっては何も言えなくなってしまう。
……他でもないアインからそんな風に言ってもらえることは何よりも幸福ではあるのだけれど。